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親族間の不動産トラブルはどうやって解決すればいい?今後に響かないための対応策とは

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親が子に無償で家を貸していたが突然返還を求めたり、相続した実家の処分方法で兄弟が対立したりするケースでは、家族関係を損なうほどの問題が発生します。

その際に注意が必要なのが親族間不動産トラブルです。親族間不動産トラブルとは、家族や親戚間で不動産の所有権、使用権、管理、処分などを巡って生じる紛争全般を指します。

これらのトラブルは、法的な問題だけでなく感情的な要素も絡むため、放置すると家族関係が破綻するリスクがあります。

そのため、トラブルの種類や予防策、解決方法について知っておくことが大切です。

そこで本記事では、親族間不動産トラブルの具体的事例と解決方法について詳しく解説します。

親族間の不動産トラブルとは

親族間不動産トラブルとは、一般的には血縁関係や婚姻関係にある者の間で、不動産の所有権、使用権、管理、処分などを巡って生じる紛争を指します

具体的には「相続した不動産の分割方法」「親が子に無償で貸している家の返還」「親族間での不動産売買における価格の妥当性」など、多岐にわたるトピックが含まれます。

これらのトラブルは、法的な側面だけでなく、家族関係や感情的な要素が強く影響するため、解決が複雑化しやすい特徴があります。

親族間不動産トラブルが発生する背景

親族間不動産トラブルが発生する背景には、さまざまな要因があります。

まず、家族関係の変化が挙げられます。例えば、親の高齢化に伴い、子供が親の所有する不動産の管理や処分に関与するようになる中で意見の相違が生じることがあります。

また、相続時に兄弟姉妹間で不動産の分割方法について合意が得られないケースも多くみられます。さらに、経済的な事情も大きな要因となります。不動産価値の変動や家族間の経済格差が、トラブルの火種となることもあります。

加えて、家族間のコミュニケーション不足や、過去の感情的なしこりが、不動産問題を通じて表面化することもあります。

親族間不動産トラブルの主な種類

親族間の不動産トラブルは、その性質や発生状況によって主に3つの種類に分類できます。それぞれのトラブルは、固有の特徴と解決の難しさを持っています。

  • 相続に関するトラブル
  • 使用貸借に関するトラブル
  • 売買に関するトラブル

ここからは、上記について詳しく説明します。

相続に関するトラブル

相続に関する不動産トラブルは、親族間で最も頻繁に発生する問題の1つです。これは主に、被相続人の死後、相続人間で不動産の分割方法や評価額について意見が対立することから始まります

例えば、複数の相続人がいる場合、誰がどの不動産を相続するか、あるいは不動産を売却してその代金を分けるかなどの問題が生じます。

また、相続人の1人が長年その不動産に住んでいた場合、「その人の居住権をどう扱うか」も争点となります。さらに、被相続人の生前の約束や意向と、法定相続分との間に齟齬がある場合にも、トラブルが発生しやすくなります。

使用貸借に関するトラブル

使用貸借に関するトラブルは、主に親が子や親族に無償で不動産を貸している場合に発生します。典型的なケースとしては、親が子に家を無償で貸していたが、何らかの理由で返還を求めたい場合などが挙げられます。

しかし、長年にわたって無償で使用してきた経緯があるため「突然の返還要求に応じられない」という状況が生じやすいのです。

また、使用貸借の期間や条件が明確に定められていないことが多いため、トラブルの種になりやすいという特徴があります。

さらに、使用者が不動産に改良を加えた場合、その費用負担や原状回復の問題も発生する可能性があります。

売買に関するトラブル

親族間での不動産売買に関するトラブルは、主に売買価格の妥当性や取引の公平性を巡って発生します。

例えば、親が子に不動産を市場価格よりも安く売却した場合、税務署から「みなし贈与」と判断され、予期せぬ税金が課される可能性があります。

また、他の相続人から「不当に安い価格での売買だと異議を唱えられる」「売買後に不動産の瑕疵が発見された」ことで、支払いに関するトラブルが生じるケースもあります。

親族間という関係性から、契約内容が曖昧になりやすく、それがトラブルの原因になることも少なくありません。

親族間不動産トラブルの具体的事例

親族間の不動産トラブルは、さまざまな形で発生します。以下に、実際によく見られる具体的な事例を紹介します。

  • 事例①:無償で住まわせていた息子夫婦の立ち退きを求めて紛争になった
  • 事例②:相続で取得した実家の売却を巡って兄弟間で対立した
  • 事例③:親子間の土地売買が「みなし贈与」として税務調査の対象になった

それぞれ個別にみていきましょう。

事例①:無償で住まわせていた息子夫婦の立ち退きを求めて紛争になった

ある高齢の父親が、結婚した息子夫婦に自宅の一部を無償で提供し、同居生活を始めました。

当初は円満な関係でしたが、時間の経過とともに生活習慣の違いや価値観の相違から、父親と息子夫婦の間に軋轢が生じるようになりました。

そこで父親は息子夫婦に立ち退きを求めましたが、息子夫婦は「長年住んでいるので権利がある」と主張し、応じませんでした。

この場合、法的には「使用貸借契約の解除問題」として扱われますが、家族関係という感情的要素が絡むため、単純な法的解決が困難になっています。このようなケースでは、双方の主張を丁寧に聞き取り、話し合いによる解決を模索することが重要です。

事例②:相続で取得した実家の売却を巡って兄弟間で対立した

両親の死後、3人兄弟が実家を相続しました。長男は実家に住み続けることを希望しましたが、他の2人は売却して代金を分配することを主張しました。

話し合いを重ねましたが合意に至らず、次男と三男は共有物分割請求訴訟を起こしました。この事例では、感情的な愛着と経済的な利益が対立しており、単純な解決が難しくなっています。

裁判所は、各当事者の事情を考慮しつつ、公平な解決策を模索することになります。このような事態を避けるためには、親の生前に相続計画を立てておくことが有効です。

事例③:親子間の土地売買が「みなし贈与」として税務調査の対象になった

父親が所有する土地を息子に売却しました。取引価格は市場価格よりもかなり安く設定されていましたが、両者は「相場より安くても問題ない」と考えていました。

しかし、この取引が税務署の注目を集め、「みなし贈与」として税務調査の対象となりました。税務署は、市場価格と実際の取引価格との差額を贈与とみなし、息子に対して贈与税の支払いを求めました。

このケースは、親族間取引における適正価格の重要性を示しています。親族間であっても、取引は適正な市場価格で行うべきであり、必要に応じて不動産鑑定士による評価を受けることが望ましいでしょう。

親族間不動産トラブルの法的権利について

親族間の不動産トラブルを理解し、適切に対処するためには、関連する法的権利について知識を持つことが重要です。以下では、特に重要な3つの法的概念について説明します。

使用貸借契約の解釈と権利

使用貸借契約は、民法に規定されている契約形態の1つで、当事者の一方が無償で使用および収益を終えた後に返還することを約束して、相手方から物を受け取る契約です。親族間では、特に明確な契約書を交わさずに使用貸借関係が成立することがあります。

例えば、親が子に家を無償で貸す場合などがこれに該当します。使用貸借契約の解釈において重要なのは、貸主がいつでも返還を求められるわけではないという点です。

契約の目的や期間が定められている場合、その目的が達成されるまで、または期間が満了するまでは、原則として返還を求めることはできません。ただし、借主の背信行為があった場合などは例外的に解除が認められるケースがあります。

共有物分割請求の権利

共有物分割請求権は、複数の人が共同で所有している不動産について、その共有状態を解消し、単独所有または別個の共有関係に分割することを求める権利です。

この権利も民法上認められており、共有者はいつでもこの請求を実施できます

ただし、共有者間で5年を超えない期間内は分割しない旨の契約をしている場合は、その期間内は請求できません。相続で不動産を共有取得した場合など、親族間で共有物分割請求が問題となることがあります。

裁判所は、各共有者の持分や利用状況、経済的事情などを総合的に考慮して、現物分割、競売分割、価格賠償など、最も適切な方法を選択します。

みなし贈与の法的解釈

みなし贈与とは、形式的には対価を伴う取引であっても、実質的に贈与と同様の経済的利益の移転があると認められる場合に、税法上これを贈与とみなして課税する制度です。

特に親族間の不動産取引では、相場よりも著しく安い価格で売買が行われた場合、その差額分が贈与とみなされる可能性があります。

法的には、みなし贈与の判断基準は厳密なものではなく、相続税法7条に基づいて個々の事案ごとに判断されます。

一般的には、時価の70%程度を下回る取引価格の場合、みなし贈与として扱われる可能性が高くなります。親族間で不動産取引を行う際は、適正な市場価格での取引を心がけ、必要に応じて不動産鑑定評価を取得するなどの対策が重要です。

親族間不動産トラブルの予防策

親族間の不動産トラブルは、一度発生すると解決が困難になることが多いため、予防策を講じることが非常に重要です。具体的には、以下のとおり。

  • 明確な契約書を作成する
  • 適正価格で取引する
  • 他の親族に事前説明をする

ここからは、それぞれ個別に解説します。

明確な契約書を作成する

親族間での不動産取引や使用貸借の際は、「親族だから」という理由で契約書の作成を省略しがちですが、これが後々のトラブルの原因となることがあります。

契約書を作成することで、取引や貸借の条件を明確にし、将来的な紛争のリスクを大幅に減らすことができます。

契約書には「取引価格や支払い方法」「物件の引き渡し時期」「瑕疵担保責任の範囲」などを明記します。

使用貸借の場合は「使用期間」「使用目的」「費用負担の方法」「返還の条件」などを具体的に記載します。また、将来的な相続や税務の問題を考慮して、取引の経緯や意図も明記しておくとよいでしょう。

契約書の作成に当たっては、法律の専門家である弁護士や司法書士に相談しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、法的に有効で、かつ将来的なトラブルを予防できる内容の契約書を作成することができます。

適正価格で取引する

親族間での不動産取引では、市場価格よりも安い価格で取引されることがありますが、これは税務上の問題を引き起こす可能性があります。

特に、相場よりも著しく安い価格での取引は、税務署から「みなし贈与」と判断される可能性があり、予期せぬ贈与税が課される恐れがあります。

適正価格での取引を行うためには、まず不動産鑑定士による公正な評価を受けることが重要です。鑑定評価額を基準に取引価格を設定することで、「みなし贈与」のリスクを軽減できます。

また、取引価格の決定過程や根拠を文書化しておくことも、将来的な税務調査への対応として有効。取引価格が適正であることを示すため、複数の不動産業者から査定を受けるなど、市場価格の調査を行うことも効果的な方法です。

これらの手続きを踏むことで、親族間取引であっても、公平性と透明性を確保することができます。

他の親族に事前説明をする

親族間での不動産取引や使用貸借の際は、直接の当事者だけでなく、他の親族にも事前に説明を行うことが重要です。特に、将来的に相続人となる可能性のある親族への説明は、後々のトラブルを予防する上で非常に効果的。

説明の際は、取引や貸借の目的、条件、経緯などを丁寧に伝えます。また、取引価格の根拠や使用貸借の条件なども明確に説明し、疑問点があれば丁寧に回答することが大切です。

可能であれば、説明会を開催し、関係する親族全員が一堂に会して情報を共有することが望ましいでしょう。

さらに、説明内容を文書化し、参加者全員に配布することで、後々の「聞いていない」というトラブルを防ぐことができます。また、重要な決定事項については、親族間で合意書を作成することも有効な方法です。

このような事前説明と情報共有を行うことで、親族間の理解と協力を得やすくなり、将来的なトラブルのリスクを大幅に減らすことができます。

親族間不動産トラブルの解決方法

親族間の不動産トラブルが発生してしまった場合、その解決方法には主に以下の3つがあります。

  • 話し合いによる解決
  • 調停・裁判による解決
  • 専門家の介入

上記は、状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。それぞれ、個別に解説します。

話し合いによる解決

親族間のトラブルでは、まず当事者間での話し合いによる解決を試みましょう。これは、裁判などの法的手段に比べて、時間とコストを抑えられるだけでなく、親族関係を維持しやすいというメリットがあります。

効果的な話し合いを行うためには、まず各当事者の主張や要望を冷静に聞き取ることが大切です。感情的になりがちな親族間のトラブルでは、第三者の仲介役を立てることも有効です。例えば、両者から信頼される親族や知人に仲介を依頼するなどの方法があります。

話し合いの際は、互いの立場や事情を理解し合うことを心がけ、Win-Winの解決策を模索します。必要に応じて、複数回の話し合いを重ねることも重要。

最終的に合意に至った場合は、その内容を文書化し、関係者全員で確認・署名することで、後々のトラブル再発を防ぐことができます。

調停・裁判による解決

話し合いでの解決が困難な場合、次の段階として法的手続きを検討することになります。まずは「調停」を利用するのが一般的です。

調停は裁判所が間に入り、当事者間の合意形成を支援する制度です。裁判に比べて手続きが簡易で、費用も抑えられるというメリットがあります。

調停でも解決しない場合は、最終的に裁判による解決を選択することになります。裁判では、法律に基づいて判断が下されるため、感情的な要素を排除した客観的な解決が期待できます。

ただし、時間とコストがかかることや、判決によって親族関係が悪化する可能性があることなどのデメリットもあります。

専門家の介入

親族間の不動産トラブルは、法律、税務、不動産評価など、専門的な知識が必要となる場合が多いため、適切な専門家の介入が問題解決を図る上では必須です。

例えば、弁護士は法的な観点からアドバイスを提供し、交渉や訴訟の代理人として活動します。税理士は、不動産取引に伴う税務上の問題について助言を行います。不動産鑑定士は、適正な不動産評価を行い、取引価格の妥当性を判断する際の重要な根拠を提供します。

また、家族関係に深刻な問題がある場合は、家族カウンセラーや臨床心理士などにも相談しましょう。これらの専門家は、感情的な対立を緩和し、建設的な話し合いを促進する役割を果たします。

まとめ

親族間の不動産トラブルは、一度発生すると解決が困難になることが多いため、予防策を講じることが非常に重要です。

明確な契約書の作成、適正価格での取引、他の親族への事前説明など、基本的な対策を心がけることで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。

しかし、すでにトラブルが発生してしまった場合は、状況に応じて適切な解決方法を選択することが求められます。話し合いによる解決を試みつつ、必要に応じて調停や裁判といった法的手段も検討しましょう。

また、これらの問題は法律、税務、不動産評価など専門的な知識が必要となることが多いため、早い段階で弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

この記事の監修者

監修者プロフィール写真

丸岡 智幸(宅地建物取引士)

訳あり不動産の買取を専門にする会社の代表取締役。
相続やペアローンによる共有持分、空き家、再建築不可物件、借地、底地など、権利関係が複雑な不動産の買取を専門としている。
訳あり不動産の買取サービス「ワケガイ」、空き家、訳あり不動産CtoCプラットフォーム「空き家のURI・KAI」を運営。
買取の経験をもとに、訳あり不動産の解説をする著書『拝啓 売りたいのに家が売れません』を2024年5月2日に出版。

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