「実家を兄弟で相続することにした……」
「夫婦でペアローンを組んでマイホームを購入する……」
このような理由で不動産を誰かと共同で所有することになった際に発生するのが「共有持分」です。現代において、共有持分を所有することになる可能性は大いにあるものの、基本的な知識について広まりきっていないのが現状でしょう。
そこで本稿では、共有持分の基礎知識やリスク、共有状態になった際の問題解決の方法について、網羅的に解説します。共有持分に関する悩みをお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
共有持分とは?
共有持分とは、複数人で所有している不動産の所有権の割合のことです。
例えば、実家の相続が発生して、兄弟3人で家屋を均等に相続したとします。その場合、相続人の当該物件に関する共有持分は「1/3」です。
共有持分権とは?
共有持分権とは、財産を複数の人で共有している際、その共有持分やそれに伴って発生するさまざまな権利のことを指します。
共有持分権者は、持分に応じて権利を持っているものの、「持分が半分だから建物の半分が自分のもの」という具体的な内容ではなく、「不動産全体に対し半分の割合の権利を持っている」という抽象的な考えです。
なぜ共有持分になるのか
不動産を共有するのは、夫婦や親子、兄弟間で購入する。あるいは複数の相続人が共同で相続するタイミングです。
特に、夫婦でマイホームを購入するケースや、相続時にアパートなどの賃貸物件を兄弟で相続する場合が該当します。
固定資産税は誰が払うの?
固定資産税は、土地や建物等の固定資産を所有する人に課される市町村税です。
毎年1月1日に所有者が納付義務を持ち、税額は不動産の「固定資産税評価額」に基づいて、土地・建物それぞれ1.4%の税率で計算されます。
共有名義の不動産にかかる固定資産税は、共有者が「自分の持分に見合った費用」を負担し、代表者が支払うのが一般的。
例えば、AとBが共有し「Aの持分が2/3」「Bの持分が1/3」として固定資産税納付書が届いたとき、「Aは20万円」「Bは10万円」を支払うことになる……、ということです。
固定資産税や都市計画税の納付書は、共有者に分割して送られるわけではなく、代表者一人に送付されます。自治体は登記されている誰にでも請求できます。
関連記事:共有名義の「固定資産税」は誰が払うべき? 滞納した場合や支払いたくない場合はどうなる?
火災保険の支払いは?
共有物件の場合、所有者は複数存在しますが、すべての人が契約者にならなければならないのでしょうか。実は、保険会社は「共有者全員との保険契約」を結んでいるわけではありません。
共有物件の場合、共有者のうち「代表者」を選んで保険契約者とします。
例えば、親が亡くなり、子が実家を相続する場合、相続財産を分割せずに共有財産として残したいなら、相続人の一人を代表者にして火災保険の契約者にする必要があります。
関連記事:共有不動産の火災保険は誰が支払うべき?保険金の受取人は?
共有持分の割合とは?
不動産を共有する場合、共有持分割合は任意に決められません。状況によって共有持分割合が決定されます。
以下より、シチュエーション別に見ていきましょう。
不動産を共同で購入した場合
不動産を複数で共同購入したケースでは、費用負担に応じて共有持分が決まります。例えば、夫婦で「土地2,000万円 + 建物3,000万円 = 合計5,000万円」の住宅を購入したとしましょう。
この物件の購入時に夫が3,500万円、妻が1,500万円を支払っていたとすると「夫の共有持分は7/10」「妻の共有持分は3/10」。
住宅ローンで購入する場合も、ローンの割合で持分割合が決まります。
上記の物件で、同様の負担割合で購入する場合は、同様に「夫の共有持分は7/10」「妻の共有持分は3/10」となります。
ただし、土地と建物は別々に登記されているため、購入時には、それぞれが土地と建物を別々にいくらで購入したかを確認する必要があります。
相続した不動産の場合
不動産を相続した場合、遺言書や遺産分割協議書の内容に従って、自分の取り分が決まります。もちろん、1つの不動産を単独で相続することも可能。
配偶者がいる場合、配偶者の取り分は他の相続人の取り分とは異なります。例えば、配偶者と子供3人が法定相続人の場合、配偶者の取り分は1/2、各子供の取り分は1/6です。
各所有者がどの程度の共有持分を持っているかは、不動産の「登記情報(謄本)」をみて確認しましょう。
共有不動産の所有者ができること
不動産の所有者は、以下の行為を行う権利を有しています。
- 変更(処分)行為
- 管理行為
- 保存行為
ただし、共有不動産の場合は、これらの行為はそれぞれ「単独で行える行為」「そうでない行為」があります。以下より、個別にみていきましょう。
変更(処分)行為
不動産を物理的、あるいは法律的に変更・処分する行為は、共有者全員の合意がなければ行えません。過半数の賛成があっても、一人でも反対すれば実行不可能です。
【変更(処分)行為】
- 売却
- 贈与
- 長期賃貸借
- 増築・改築
- 大規模修繕
- 抵当権の設定
- 取り壊し
- 建て替え
- 分筆/合筆
管理行為
管理行為を実施するには、共有者の持分割合の過半数の同意が必要です。例えば、3人の共有者がそれぞれ1/3を持つ場合、うち2人が同意すれば管理行為が可能となります。
これについては、民法第252条が「共有者の管理に関する事項は、前条の場合を除き、共有者の持分数に応じて、その過半数で決する」と定めているとおり。
【管理行為】
- 賃貸借契約の締結
- 不動産の共同利用方法の決定
- 賃料の減額
- 賃貸借契約の終了
保存行為
各共有者は、単独で「保存行為」を共有者個々に行うことが認められており、不利益をもたらさない限り、他の共有者の同意は不要です。
民法でも「各共有者が保存行為をすることができる」と認めています。
【保存行為】
- 修繕
- 無権利者に明渡し請求、抹消登記請求
- 法定相続による所有権移転登記
以上のように、不動産の共有者は上記のような権利を持っています。単独では意思決定ができないため、各共有者がお互いの権利を制限し合っている……、と認識しましょう。
共有持分のリスクとは?
共有持分のリスクを考慮する際、まず財産権の基本原則である「一物一権」を押さえておくことが重要です。
具体的には、下記の内容を意味しています。
- 権利の対象は単一のものでなければならない。
- 一つの物に対して一つの権利しか存在しないこと。
不動産においても、「1つの不動産に対して2つの所有権(完全に無制限の所有権)」が対立することは基本的にありません。所有権と抵当権は異なる権利であり、1つの不動産に共存させても「一物一権」の原則には反しないのです。
しかし、同質の所有権が共存できないという原則から考えると、共有状態は例外的な存在となります。
そこで、共有持分には次のようなリスクが存在すると言えます。
- 他の共有者の同意が必要で手続きが煩雑
- 分割請求のリスクがある
- 価値が低下する可能性がある
これらのリスクを踏まえた上で、共有不動産に関する判断や取り組みを慎重に進めることが重要。共有者同士が円滑なコミュニケーションを取り合い、互いの権利を尊重し合いましょう。
関連記事:共有持分のリスクとは? 共有状態はなぜリスクが高いのか?
関連記事:共有名義不動産を「独り占め」したらどうなる?問題発生時の解決方法について紹介
関連記事:「共有物分割請求」と「不動産の交換」の違いとは?
共有持分にメリットはあるの?
不動産を共有名義にすると、いくつかのメリットも発生します。具体的には、以下のとおり。
- 住宅ローン控除を二重に利用可能
- 売却時の特別控除も二重に得られる
住宅ローンを使って不動産を手に入れる際、「住宅ローン控除」が活用できます。
これはつまり、「住宅ローンの年末残高」「住宅の購入価格」のうち、どちらか少ない方の1%が10年間(住み始めた時期によっては13年間)、所得税から控除される、ということです。所得税から控除しきれなかった金額は、住民税から差し引く形が採られます。
ただし、上限額が「40万円」に設定されている点は把握しておきましょう。夫婦で借りるなら4,000万円以上のローンを組んでも、控除額は増えないのです。
関連記事:不動産共有のメリット・デメリットとは?マイホーム購入の際の判断基準を紹介
共有持分の売却手段とは?
では「共有状態から抜け出したい」と考えた際には、どのような対応を採ればよいのでしょうか。有効な選択肢は、やはり「共有持分の売却」です。
自分の持分だけの売却であれば、単独で行うことが可能。しかし、実際に自分の持分だけを売却しようとしても、なかなか買い手は見つからないでしょう。
共有持分の売却手段としては、以下のようなものが考えられます。
- 共有者全員の同意をとって不動産そのものを売却する
- 他の共有者に自分の持分のみを売却する
- 不動産を分割して売却する(※土地の場合)
- 自分の持分を第三者に売却する
次項より、それぞれについてみていきましょう。
共有者全員の同意をとって不動産そのものを売却する
まず「不動産の共有者全員の同意をとって売却する」という方法があります。共有不動産の売却方法としては、最も一般的な方法の1つ。
この売却方法の特徴は「権利関係が整っている状態のため、使用制限がなく、購入者が通常の利用ができる」ことです。それにより、扱いの難しい共有不動産も、市場相場相当で売却できるようになるのです。
他の売却方法と比べ、一人当たりの売却利益が高くなるのは、所有者にとって大きなメリットといえるでしょう。
ただし、共有者が1人でも売却に反対していれば、売却はできません。特に、その不動産に住んでいる共有者がいる場合は、売却の同意をとることが難しいケースが多いでしょう。
また、共有者が多ければ多いほど、全員の合意に手間がかかるので、大変な労力がかかるかもしれません。
他の共有者に自分の持分のみを売却する
自分の共有持分を他の共有者に売却する……、という選択肢もあります。他の共有者が持分の購入に前向きなのであれば、買い手を探す手間がかからず、売却に時間もかからないため、手軽な方法といえるでしょう。
第三者が共有関係に加わる場合とは異なり、現行の共有者間での持分割合が変わるだけなので、心理的な抵抗も少なくなるはず。
しかし、共有状態の物件は、親族関係で共有していることが多く、親族間での共有持分の売買交渉となるため、「金額面で折り合いがつかず、話がスムーズに進まない」という可能性もある点には留意しましょう。
親族間売買の方法については、下記の記事もご参照ください。
不動産を分割して売却する(※土地の場合)
不動産を分割して売却するということは、つまり「特定の土地を複数に分割して、それぞれの土地に共有者が単独所有となるように振り分ける」行為を意味します。
共有不動産が土地でなければ利用できませんが、土地の共有名義がなくなるため、売却がしやすくなる点がメリットといえるでしょう。
さらに、分割するにしても費用がかかります。土地をいくつかに分割する場合、境界を確定するための測量が必要。さらに「土地を分割したこと」「それぞれの土地の所有者を決めたこと」を登記しなければならないのです。
第三者に売却する
「他の共有者と連絡が取れない」「売却に同意してもらえない」などの問題がある場合は、自分の持ち分だけを売却することも選択肢です。ただし、共有持分を市場価格相当で買い取ってもらえるかというと、そうではありません。
なぜなら、持分のみの買取なので、購入者は自由にその土地を利用することができないため。それゆえに、売却価格はかなり低い金額になってしまうでしょう。
しかし、共有者の同意を得ることが難しい場合や、共有者間で何らかのトラブルが発生してしまっているケースもあるかもしれません。そういった場合は、専門の買取業者への売却も検討しましょう。
共有名義の物件を売却する方法や、名義変更のやり方については、下記の記事でも解説しています。あわせて、ご参照ください。
関連記事:共有名義のマンションは売却できる?放置するリスクや売却方法を紹介
関連記事:共有名義の不動産を「名義変更」する方法とは?
共有持分は買取業者とは?
前述のとおり、共有持分を専門の買取業者へ売却するのも有効な問題解決の方法です。ここからは、そんな共有持分買取業者について解説します。
買取業者の特徴
共有持分の買取業者は、複雑な権利関係を持つ「訳あり物件」を専門に取り扱う不動産業者です。一般的な業者では難しい共有持分の取引も、専門業者ならスムーズに対応可能。共有者間のコミュニケーションも請け負うことで、共有不動産の迅速な買取を行なってくれます。
専門の買い取り業者なら、共有持分を買い取るためのノウハウが豊富で、場合によっては弁護士や税理士といった士業とも連携しているのが特徴です。そのため、業者によっては「最短即日買取」といった事例も存在します。
買取業者の選定方法
買取業者に相談する場合、以下のような点に留意しましょう。
- 買取実績
- コミュニケーションコストの低さ
- 司法書士や弁護士との連携
- 査定額の根拠
共有持分の買取業者に相談する際には、ホームページなどで買取実績を確認しましょう。豊富な実績を持つ業者は、ノウハウと資金力があり、短期間で高額売却が期待できます。
共有者とのトラブル回避も重要。問い合わせ段階からコミュニケーション力を判断し、安心感のある業者を選ぶことが大切です。
さらに、権利関係が複雑な共有持分では、司法書士・弁護士と連携する業者がスムーズな対応やサポートを提供できます。
なお、あらかじめ共有持分の売却価格の決まり方も把握しておき、買取業者から提示された査定額については、金額だけでなく査定額の「根拠」についてしっかりチェックしましょう。
以上を踏まえることにより「良心的な買取業者かどうか」を判断できます。
関連記事:共有持分の買取業者を得意ジャンル別に9社紹介|買取依頼のメリットや選び方も解説
関連記事:東京都で共有持分を買い取ってくれる不動産業者6選
まとめ
他の誰かと不動産を共同で所有している状態を示す共有持分は、自分の持分であっても売却や利活用に制限を受けます。共有状態から抜け出したいと考えても、他の共有者との兼ね合いでスムーズにいかないケースも往々にしてあるでしょう。
そういった場合は、専門の買取業者に「自分の共有持分のみを売却する」というのも有効な選択肢です。
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