共有持分【相続】

共有持分を遺言書で相続させることは可能?効力や手続きの流れを詳しく紹介

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共有不動産の相続では、相続人間での意見対立や遺留分侵害の訴訟、相続登記の遅延による罰則など、複雑な問題が発生することがあります。

その際に有効なのが共有持分の遺言相続です。共有持分の遺言相続とは、遺言書によって共有持分の相続先や相続割合を明確に指定し、円滑な相続を実現する方法です。

これにより、相続人間のトラブルや相続税の問題、相続登記の遅延による罰則などのリスクを軽減できます。

適切な遺言書の作成と執行により、共有者間の対立を未然に防ぎ、相続税の最適化や迅速な相続登記も可能となります。また、遺言執行者を指定することで、より確実に遺言者の意思を反映させることができます。

そこで本記事では共有持分の遺言相続について、基礎知識から実施手順、注意点などを詳しく解説します。

共有持分と遺言の基礎知識

共有持分とは、1つの不動産を複数の人が共同で所有している状態を指します。例えば、父と息子で土地を共有している場合、それぞれが持分を持つことになります。共有持分は、登記簿の権利部(甲区)に記載され、通常は分数で表現されます。

例えば「1/2」や「1/3」といった具合です。この持分は、所有権の一部を表すもので、共有者はそれぞれの持分に応じて不動産を使用・収益・処分する権利を持ちます。

ただし、不動産全体の処分には原則として全共有者の同意が必要となるため、単独で自由に売却することはできません。共有持分は相続の対象となり、遺言によってその行方を指定することが可能です。

遺言の種類と効力

遺言には主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆で書き、日付と氏名を記載し、押印することで作成できます。一方、公正証書遺言は公証役場で公証人の立会いのもと作成されます。

どちらも法的効力を持ちますが、公正証書遺言のほうが形式的な不備が少なく、遺言の存在や内容が確実に伝わるため、トラブルを防ぐ意味では優れています。遺言の効力は、原則として遺言者の死亡時に生じます。遺言は法定相続よりも優先され、遺言の内容に従って相続が行われます。

ただし、遺留分を侵害する内容の場合、遺留分権利者から減殺請求を受ける可能性があります。

共有持分と遺言の関係性

共有持分と遺言は密接な関係にあります。共有持分を相続財産として持つ人が遺言を残すことで、その持分を誰にどのように引き継がせるのかを明確に指定できます。

これにより、相続人間のトラブルを防ぎ、スムーズな相続を実現することが可能です。例えば、「私の所有する土地の1/2の共有持分を長男に相続させる」といった形で遺言に記載することができます。

遺言がない場合、共有持分は法定相続人に分割して相続されることになり、さらに共有者が増えて権利関係が複雑化する可能性があります。そのため、共有持分を持つ人が遺言を作成することは、将来の相続をスムーズに進める上で非常に重要です。

共有持分を遺言で相続させる方法

共有持分を遺言で相続させるには、以下の5つの手順を踏むことが重要です。それぞれの手順について詳しくみていきましょう。

  • 手順①:共有持分の状況を確認する
  • 手順②:相続人と相続割合を決定する
  • 手順③:適切な遺言書の形式を選択する
  • 手順④:遺言書を作成する
  • 手順⑤:遺言書の保管と関係者への周知

次項より、詳しく解説します。

手順①:共有持分の状況を確認する

まず、共有持分の正確な状況を把握することから始めます。不動産の登記事項証明書を取得し、共有者全員の氏名と持分割合を確認しましょう。

また、不動産の評価額も把握しておくことが大切です。これは相続税の計算や遺留分の検討に必要となります。

不動産鑑定士による評価や路線価を参考にすると良いでしょう。共有持分の状況を正確に把握することで、遺言の内容をより適切なものにすることができます。

手順②:相続人と相続割合を決定する

次に、法定相続人を確認し、各相続人への相続割合を決定します。法定相続人は、配偶者、子、父母、兄弟姉妹の順で決まります。

相続割合は法定相続分を参考にしつつ、遺留分にも配慮して決定します。例えば、配偶者と子供2人がいる場合、法定相続分は配偶者が1/2、子供がそれぞれ1/4となります。ただし、遺言では法定相続分と異なる割合で相続させることも可能です。

相続人の生活状況や不動産の利用状況なども考慮して、公平かつ実情に合った割合を決めましょう。

手順③:適切な遺言書の形式を選択する

前述のとおり、遺言書の形式には主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は自宅で作成でき、費用がかからないメリットがありますが、形式不備のリスクがあります。

一方、公正証書遺言は公証人の関与により法的な確実性が高く、遺言書の紛失や偽造のリスクも低くなります。

ただし、作成に費用がかかります。共有持分のような複雑な内容を含む遺言では、法的安定性の高い公正証書遺言がおすすめです。状況に応じて適切な形式を選択しましょう。

手順④:遺言書を作成する

遺言書の作成では、不動産の正確な特定が重要です。登記事項証明書に記載された所在地や地番、面積などを正確に記載します。共有持分については、「私の所有する〇〇の土地の3分の1の共有持分」のように明確に指定します。

相続人の氏名や生年月日も正確に記載し、相続させる財産と相続人を明確に対応させます。必要に応じて遺言執行者を指定することも検討しましょう。

公正証書遺言の場合は、公証人のサポートを受けながら作成できます。

手順⑤:遺言書の保管と関係者への周知

作成した遺言書は安全に保管する必要があります。自筆証書遺言の場合、法務局の遺言書保管制度を利用するのが安全です。公正証書遺言は公証役場で保管されます。

また、遺言の存在と保管場所を家族や遺言執行者に知らせておくことも重要です。ただし、内容まで詳しく伝える必要はありません。定期的に遺言書の内容を見直し、必要に応じて修正することも忘れずに行いましょう。

これにより、遺言者の最新の意思を反映させることができます。

共有持分の遺言における効力の範囲

共有持分の遺言相続には、通常の相続とは異なる特有の注意点があります。ここでは、他の共有者との関係、相続税の取り扱い、そして登記手続きにおける重要な注意点について詳しく解説します。

遺言の効力が及ぶ範囲

共有持分に関する遺言の効力は、原則として遺言者が所有する持分にのみ及びます。

例えば、Aさんが不動産の1/2の共有持分を持っており、その全てを長男に相続させるという遺言を残した場合、長男はAさんの持っていた1/2の持分を相続することになります。ただし、他の共有者の持分には影響を与えません。

つまり、遺言で共有持分全体の処分を指示することはできません。また、遺言の効力は遺言者の死亡時に発生します。そのため、遺言者が生存中に共有持分を処分してしまった場合、その部分については遺言の効力が及ばなくなります。

遺言者は自身の持分についてのみ自由に処分できるため、遺言作成時には現在の持分状況を正確に把握しておくことが重要です。

遺留分との関係

遺留分とは、一定の相続人に保障された最低限の相続分のことです。共有持分を遺言で特定の相続人に相続させる場合でも、この遺留分を侵害することはできません。

例えば、被相続人に配偶者と子供2人がいる場合、遺留分は法定相続分の1/2となります。仮に被相続人が共有持分全てを一人の子供に相続させる遺言を残した場合、他の相続人は遺留分侵害を理由に減殺請求をすることができます。

ただし、遺留分は金銭での支払いも認められているため、共有持分を受け取る相続人が他の相続人に金銭で支払うことで解決することも可能です。

遺言作成時には、この遺留分を考慮し、他の相続財産とのバランスを取りながら共有持分の相続先を決定しましょう。

共有持分の遺言相続における注意点

共有持分を遺言で相続させる際には、いくつかの重要な注意点があります。ここでは、他の共有者との関係、相続税の取り扱い、そして登記手続きの注意点について詳しく解説します。

他の共有者との関係

共有持分を遺言で相続させる場合、他の共有者との関係に十分な配慮が必要です。

遺言によって新たな共有者が加わることで、既存の共有者との間で共有不動産の「管理」「使用方法」について意見の相違が生じる可能性があるためです。特に、家族以外の第三者が新たな共有者となる場合は、既存の共有者との関係性に大きな影響を与えかねません。

このような問題を防ぐためには、遺言作成時に可能な限り他の共有者の意向も確認し、将来的なトラブルを防ぐ工夫が必要です。

例えば、遺言に不動産の管理方針を明記したり、他の共有者との事前の話し合いを行ったりすることで、相続後のトラブルを軽減できる可能性があります。また、共有関係の解消を視野に入れ、遺言で共有物分割の方針を示すことも1つの選択肢です。

相続税の取り扱い

共有持分の相続においては、相続税の取り扱いにも注意が必要です。相続税は、原則として相続した財産の価額に基づいて計算されます。共有持分の場合、その持分割合に応じた評価額が相続財産として計算されます。

例えば、時価1億円の不動産の1/2の共有持分を相続した場合、相続財産としての評価額は5000万円となります。ただし、実際の相続税額は、基礎控除額や他の相続財産の有無、相続人の数などによって変わってきます。

また、小規模宅地等の特例などの相続税の軽減措置が適用できる可能性もあります。この特例は、被相続人が居住していた宅地や事業用地について、一定の条件を満たせば評価額を大幅に減額できるものです。共有持分であっても、条件を満たせば適用可能です。

相続税の計算は複雑で、専門的な知識が必要となるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

登記手続きの注意点

共有持分の相続後は、速やかに相続登記を行う必要があります。2024年4月1日からは、相続登記が義務化され、相続を知ってから3年以内に登記を行わないと過料が科される可能性があります。

なお、共有持分の相続登記においては、登録免許税に関する注意点が重要です。通常、不動産の相続登記には登録免許税がかかりますが、相続開始から3年以内に登記を行えば免税になります。これは共有持分の相続登記にも適用される重要な特例です。

具体的には、相続による所有権移転登記の場合、原則として不動産の固定資産税評価額の0.4%の登録免許税が課されます。しかし、相続開始を知った日から3年以内に登記申請をすれば、この税金は免除されます。

共有持分の場合、登録免許税は持分に応じて計算されます。例えば、固定資産税評価額1000万円の不動産の1/2の共有持分を相続する場合、通常なら2万円(1000万円×1/2×0.4%)の登録免許税がかかりますが、3年以内の申請で免税となります。

共有持分の遺言相続によるトラブル例

ここからは、共有持分の遺言相続におけるトラブル例について、以下の4つを紹介します。

  • トラブル例①:遺言書の形式不備で無効になる
  • トラブル例②:他の共有者との管理方法で対立する
  • トラブル例③:遺留分侵害で訴えられる
  • トラブル例④:相続登記の遅れによる罰則が発生する

それぞれ個別にみていきましょう。

トラブル例①:遺言書の形式不備で無効になる

共有持分の遺言相続において、最も基本的かつ深刻なトラブルの1つが遺言書の形式不備による「無効」です。例えば、自筆証書遺言で日付や署名が漏れていたり、財産目録に押印がなかったりすると、遺言全体が無効となる可能性があります。

このような場合、遺言者の意思が反映されず、法定相続となってしまいます。その結果、共有持分が複数の相続人に分散し、さらに権利関係が複雑化する恐れがあります。

このトラブルを防ぐためには、公正証書遺言の利用が効果的です。公証人の関与により形式的な不備を防ぐことができます。自筆証書遺言を選択する場合は、作成後に弁護士や司法書士などの専門家にチェックを依頼することをおすすめします。

また、2020年7月から開始された法務局での自筆証書遺言保管制度を利用することで、形式不備のリスクを軽減できます。定期的な遺言書の見直しも重要で、共有持分の状況変更に応じて内容を更新することが大切です。

トラブル例②:他の共有者との管理方法で対立する

遺言で共有持分を相続した後、ほかの共有者との間で不動産の管理方法について意見が対立するケースがよくあります。例えば、相続した共有持分について賃貸活用を希望する相続人と、現状維持を望む他の共有者との間で対立が生じる可能性があります。

共有物の管理は、原則として共有者の持分の過半数で決定されますが、重要な変更には全員の同意が必要となります。このため、意見の相違が解消されないと、不動産の有効活用ができず、関係悪化にもつながる恐れがあります。

このトラブルを予防するには、遺言作成時に不動産の管理方針を明確に記載することが有効です。例えば、「相続人は他の共有者と協議の上、不動産を賃貸することができる」といった具体的な指示を遺言に盛り込むことで、相続後の方針を明確にできます。

また、被相続人の生前から共有者間で将来の管理方針について話し合いを持ち、合意形成を図っておくことも重要です。対立が生じてしまった場合は、調停や裁判外紛争解決手続(ADR)の利用を検討し、第三者の介入による解決を図ることも1つの選択肢です。

トラブル例③:遺留分侵害で訴えられる

遺留分侵害は、共有持分の遺言相続でよく起こるトラブルです。例えば、被相続人が共有持分全てを一人の相続人に相続させる遺言を残した場合、他の相続人から遺留分侵害の訴えを受ける可能性があります。

遺留分とは、法律で保障された最低限の相続分のことです。配偶者や子供には、法定相続分の1/2の遺留分が保障されています。遺言でこれを下回る相続分しか与えられない場合、該当する相続人は遺留分侵害額請求権を行使できます。

このトラブルを防ぐには、以下の対策が効果的です。

  • 遺言作成時に遺留分を考慮した財産分配を行う
  • 生前贈与を活用して計画的に財産を分配する
  • 専門家のアドバイスを受けて遺言書を作成する

トラブル例④:相続登記の遅れによる罰則が発生する

2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続の発生を知ってから3年以内に相続登記を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。

相続登記の遅れは、以下のような問題も引き起こします。

  • 不動産の売却や活用が困難になる
  • 相続人が増えて権利関係が複雑化する
  • 固定資産税の支払いが滞る

特に共有持分の場合、複数の相続人が関わるため、相続登記がさらに遅れる傾向があります。このトラブルを防ぐには、以下の対策が効果的です。

  • 相続発生後、速やかに相続登記の準備を始める
  • 相続人全員で話し合い、登記手続きの担当者を決める
  • 専門家(司法書士など)に相談し、必要な手続きを確認する

相続登記は複雑な手続きを伴うため、専門家のサポートを受けることで、確実かつ迅速な登記が可能になり、罰則のリスクを回避できます。

まとめ

共有持分の遺言相続は、複雑な法的手続きと細心の注意が必要な過程です。本記事で解説した基礎知識や手順、注意点を踏まえて対応することで、多くのトラブルを回避できます。

特に重要なのは、遺言書の適切な作成と保管、相続人との十分な話し合い、そして相続税や登記手続きへの迅速な対応です。

しかし、個々の状況によって最適な対応は異なるため、専門家のアドバイスを受けることが賢明です。共有持分の遺言相続に関する疑問や不安がある場合は、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談しましょう。

専門家のサポートを受けることで、法的リスクを最小限に抑え、円滑な相続を実現できます。

この記事の監修者

監修者プロフィール写真

丸岡 智幸(宅地建物取引士)

訳あり不動産の買取を専門にする会社の代表取締役。
相続やペアローンによる共有持分、空き家、再建築不可物件、借地、底地など、権利関係が複雑な不動産の買取を専門としている。
訳あり不動産の買取サービス「ワケガイ」、空き家、訳あり不動産CtoCプラットフォーム「空き家のURI・KAI」を運営。
買取の経験をもとに、訳あり不動産の解説をする著書『拝啓 売りたいのに家が売れません』を2024年5月2日に出版。

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