共有持分【相続】

相続税の「物納」とは?物品で納税できる品目やシチュエーションを詳細に解説

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相続財産の大半が不動産や有価証券など、換金が困難な資産である場合、相続税の現金納付が大きな問題となります。

このような状況で、相続人は財産を急いで売却せざるを得ず、不利な条件での取引を強いられるリスクがあります。その際に有効な選択肢となるのが相続税の物納制度です。

相続税の物納とは、相続税を現金ではなく相続した財産そのもので納付する制度。この制度により、相続人は現金化が困難な財産を直接納税に充てることができ、財産の強制売却を回避できる可能性があります。

そこで本記事では、相続税の物納制度について詳しく解説します。物納の概要、メリットとデメリット、申請手続きの流れを具体的にみていきましょう。

相続税の物納とは

相続税の物納制度は、相続人が相続税を現金で納付することが困難な場合に、相続した財産そのものを国に納めることで税を支払う特別な制度です。

この制度の主な目的は、突然の相続税負担による相続人の経済的困難を緩和することにあります。

物納制度は、相続した財産が不動産や有価証券などの換金しにくい資産である場合に特に有効です。例えば、相続した土地や建物の価値が高く、それを売却して現金化するまでに時間がかかる場合や、売却自体が困難な場合などに利用されます。

この制度により、相続人は相続財産を急いで売却する必要がなくなり、適切な価格で納税することが可能になります。また、国にとっても、納税の確実性が高まるというメリットがあります。

物納が認められる条件

物納が認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。主な条件は以下のとおりです。

  • 相続税額が10万円を超えていること
  • 延納によっても金銭で納付することが困難であること
  • 物納申請する財産が相続または遺贈により取得した財産であること
  • 物納申請財産が国税庁長官の定める順位に従っていること
  • 申請期限(原則として相続税の納付期限)までに物納申請書を提出すること

特に重要なのは、物納は延納(分割払い)でも納付が困難な場合にのみ認められるという点です。つまり、物納は最後の手段として位置づけられています。

また、物納申請する財産は、相続または遺贈で取得したものに限られます。相続人が元々所有していた財産や、相続後に取得した財産は物納の対象にはなりません。

物納の申請は慎重に検討する必要があります。なぜなら、一度物納が許可されると、その決定を取り消すことは難しいからです。

したがって、物納を検討する際は、税理士などの専門家に相談することが推奨されます。

物納できる財産の種類と優先順位

物納に充てることができる財産には、種類や優先順位が定められています。これは国が管理・処分しやすい財産を優先的に受け入れるためです。

具体的には、以下のように第1位から第3位まであります。

  • 第1順位の財産
  • 第2順位の財産
  • 第3順位の財産

それぞれ詳しく解説します。

第1順位の財産

第1順位の財産は、物納の際に最も優先して受け入れられる財産です。具体的には以下のものが含まれます。

  • 国債および地方債
  • 不動産(土地および建物)
  • 船舶
  • 上場株式

など

これらの財産が物納の第1順位とされる理由は、比較的換金しやすく、価値の評価が容易であるためです。特に国債や地方債は安全性が高く、国にとって管理がしやすい財産として挙げられます。

不動産に関しては、立地や状態によっては管理や処分が難しい場合もありますが、一般的には価値が安定しており、国有財産として活用できる可能性が高いのです。

上場株式等も、市場で取引されているため価格が明確で、換金も容易。ただし、相続時の評価額と実際の換金時の価格に差が生じる可能性があるため、注意が必要です。

第2順位の財産

第2順位の財産は、第1順位の財産がない場合、または不足する場合に物納の対象となります。第2順位の財産としては以下のものが挙げられます。

  • 非上場株式
  • 社債(特別の法律により法人の発行する債券を含む)
  • 証券投資信託または貸付信託の受益証券

これらの財産は、第1順位の財産と比べると流動性が低く、価値の評価が複雑になる傾向があります。特に非上場株式は、その価値を正確に評価することが難しく、また売却も容易ではありません。

社債や投資信託の受益証券も、市場の状況によっては価値が大きく変動する可能性があります。そのため、これらの財産を物納する場合は、評価額の決定に慎重な検討が求められます。

第3順位の財産

第3順位の財産は、第1順位と第2順位の財産がない。あるいは不足する場合にのみ物納の対象となります。第3順位の財産には「動産(美術品、宝石、骨董品など)」が含まれます。

これらの財産は、価値の評価が非常に主観的になりやすく、また市場の需要によって大きく価格が変動する可能性があります。そのため、物納財産としては最も優先順位が低くなっているのです。

動産を物納する場合、専門家による鑑定評価が必要となることが多く、また保管や管理にも特別な配慮が必要となることがあります。

例えば、美術品や骨董品は適切な環境下で保存する必要があり、国にとってもその管理は容易ではありません。

したがって、第3順位の財産による物納は稀であり、通常は第1順位や第2順位の財産で物納が行われます。ただし、特殊なケースでは第3順位の財産も物納の対象となる可能性があるため、相続財産の状況に応じて検討する必要があります。

物納と延納の違い

相続税の納付方法には、物納以外にも延納という選択肢があります。両者には明確な違いがあり、状況に応じて適切な方法を選択することが求められます。

ここでは、物納と延納の特徴を比較し、どちらが自分の状況に適しているかを判断するための知識を解説します。

延納制度の概要

延納制度は、相続税を一括で納付することが困難な場合に、分割して納付することを認める制度です。延納の主な特徴は以下のとおりです。

  • 適用条件:相続税額が10万円を超え、金銭で一括納付することが困難な場合に申請できる。
  • 延納期間:相続財産中の不動産等の価額の割合によって、5年から20年の範囲で設定されます。特定の森林の割合が高い場合は最長40年まで延長可能。
  • 利子税:延納期間中は、国に対して利子税を支払う必要がある。利子税率は、延納期間や財産の種類によって異なる。
  • 担保提供:原則として、延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供する必要がある。ただし、延納税額が100万円未満で延納期間が3年以下の場合は不要。
  • 申請期限:相続税の納期限までに延納申請書を提出する必要がある。

延納制度は、相続人が相続財産を維持しながら、時間をかけて相続税を納付できるようにする制度です。これにより、相続財産の急激な処分を避け、相続人の経済的負担を軽減することができます。

物納と延納の選択基準

物納と延納は、どちらも相続税の納付を容易にするための制度ですが、それぞれに特徴があり、状況に応じて選択する必要があります。以下に、選択の基準となる主なポイントを挙げます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<資金の流動性>

  • 延納:将来的に分割払いができる見込みがある場合に適している。
  • 物納:現金化が困難な資産が多く、将来的にも納付の見込みが立たない場合に検討する。

<相続財産の性質>

  • 延納:現金化可能な資産がある程度ある場合に有効。
  • 物納:不動産や非上場株式など、換金が難しい資産が多い場合に検討する。

<相続財産の保持>

  • 延納:相続財産を手放したくない場合に適している。
  • 物納:特定の財産を手放しても良い場合に選択する。

<手続きの複雑さ>

  • 延納:比較的手続きが簡単。
  • 物納:申請手続きが複雑で、審査も厳格。

<将来の経済状況の見通し>

  • 延納:将来の収入増加や資産価値の上昇が見込める場合に適している。
  • 物納:将来的にも納税資金の確保が困難と予想される場合に検討する。

<税務署の審査>

  • 延納:比較的認められやすい。
  • 物納:厳格な審査があり、認められるハードルが高い。

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物納と延納の選択は、相続人の経済状況や将来の見通し、相続財産の性質などを総合的に考慮して決定する必要があります。

どちらの制度を利用するかは、相続税の納付に大きな影響を与えるため、税理士などの専門家に相談しながら慎重に判断することが重要です。

物納不適格財産について

すべての財産が物納の対象となるわけではありません。国が受け入れを拒否する可能性がある財産について理解しておくことが大切です。

ここでは、物納不適格財産の種類と特徴について詳しく解説します。

管理処分不適格財産とは

管理処分不適格財産とは、国が管理や処分を行うことが著しく困難と判断される財産のことです。

これらの財産は、物納申請時に原則として却下されます。主な例としては以下のようなものがあります。

  • 担保権が設定されている不動産
  • 権利関係が複雑で、所有権の帰属に争いがある財産
  • 境界が明確でない土地
  • 他人と共有している不動産(共有者全員が物納申請する場合を除く)
  • 耐用年数を大きく超過した建物(通常の使用ができるものを除く)
  • 管理や処分に要する費用が収納価額を超えると見込まれる財産

これらの財産は、国にとって管理や売却が困難であるため、物納財産として受け入れられません。

例えば、境界が不明確な土地は、将来的に隣地との紛争リスクがあるため、国は積極的に受け入れようとしません。

管理処分不適格財産に該当する場合でも、問題を解決することで物納が可能になる場合があります。具体的には、境界不明確な土地であれば、隣地所有者と境界確定の協議を行い、境界を明確にすることで物納可能な状態にできる可能性があります。

物納劣後財産とは

物納劣後財産は、管理処分不適格財産ほど厳しくはありませんが、他の財産と比べて物納の優先順位が低い財産を指します。

これらの財産は、他に適当な物納財産がない場合にのみ、物納が認められる可能性があります。主な物納劣後財産には以下のようなものがあります。

  • 地上権、賃借権、地役権が設定されている土地
  • 法令違反の建築物およびその敷地
  • 現に納税者が居住または事業に使用している建物とその敷地
  • 特殊な技能を要する維持管理が必要な建物(劇場、工場など)
  • 都市計画法上の開発許可が必要な土地
  • 農業振興地域内の農用地区域内にある土地

なお、物納劣後財産を物納申請する場合は、その財産しか物納できる財産がないことを明確に説明し、他の選択肢がないことを示す必要があります。

また、物納劣後財産の状況を改善できる場合は、物納申請前にその対策を講じることで、物納が認められる可能性が高まります。

物納のメリットとデメリット

物納制度には、相続人にとって有利な点と不利な点が存在します。これらを十分に理解した上で、物納を選択するかどうかを判断する必要があります。

物納のメリット

物納の最大のメリットは、現金での一括納付が困難な場合でも、相続した財産そのもので納税できることです。

例えば、相続財産の大部分が不動産や有価証券である場合、これらを売却せずに直接納税に充てられるため、相続人の現金負担が大幅に軽減されます。

また、相続税評価額で納税できるため、実際の市場価格が評価額を下回っている場合には有利になる可能性があります。

さらに、物納を選択することで、相続人間での現金のやり取りが減少し、分割協議をスムーズに終えられます。

物納のデメリット

一方で、物納にはいくつかの注意すべき点があります。

まず、申請手続きが複雑で時間がかかることが挙げられます。必要な書類も多く、審査にも時間を要するため、納税までに長期間かかる可能性があります。

また、すべての申請が許可されるわけではなく、却下されるリスクも存在します。

物納が許可されると財産の所有権は国に移転するため、将来的に価値が上昇する可能性のある財産を手放すことになるかもしれません。

さらに、物納申請中は財産の管理責任が相続人にあるため、許可されるまでの期間、適切な管理を続ける必要があります。物納後に差額が発生した場合、追加の納税や還付の手続きが必要になることもあり、予期せぬ経済的負担が生じかねない点には留意が必要です。

物納の申請手続き

ここでは、物納申請の具体的な手順を段階的に解説します。大きくは、以下5つの流れに分類されます。

  • 手順①:物納申請書の作成
  • 手順②:必要書類の準備
  • 手順③:税務署への申請書提出
  • 手順④:税務署による審査
  • 手順⑤:許可または却下の通知

次項より、詳しく解説します。

手順①:物納申請書の作成

物納申請を行う際には、まずは物納申請書の作成が必要です。この申請書には、以下の情報を記載します。

  • 申請者の基本情報
  • 被相続人の情報
  • 相続開始日
  • 申請する相続税額
  • 物納に充てる財産の明細

特に重要なのは、物納を必要とする理由の説明です。現金納付が困難である具体的な状況を明確に記載する必要があります。

なお、記載内容に誤りがあると、申請が却下される可能性があるため、不明な点がある場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

なお、申請書の様式は国税庁のウェブサイトからダウンロード可能です。

手順②:必要書類の準備

物納申請書に加えて、多くの補足書類を準備する必要があります。主な必要書類は以下のとおりです。

  • 物納財産目録:物納に充てる財産の詳細な情報を記載
  • 金銭納付を困難とする理由書:現金納付が困難な理由を具体的に説明
  • 物納財産の評価に関する資料:不動産の場合、登記事項証明書や固定資産評価証明書など
  • 相続税の申告書の写し
  • 遺産分割協議書の写し(遺産分割が済んでいる場合)

物納財産の種類によって必要な書類が異なる場合があるため、事前に税務署に確認することが推奨されます。

すべての書類を漏れなく準備することが、スムーズな申請に繋がるでしょう。

手順③:税務署への申請書提出

準備した申請書と必要書類一式を、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出します。提出の期限は原則として相続税の納付期限(相続開始を知った日から10ヶ月以内)までです

ただし、やむを得ない理由がある場合は「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出することで、最長1年間の延長が可能です。

期限を過ぎると物納申請ができなくなるため、十分な余裕を持って準備を進めることが重要です。

提出の際は、税務署の担当者と面談し、申請内容について説明する機会がある場合もあります。質問には丁寧かつ正確に答え、物納の必要性を明確に伝えるよう心がけましょう。

手順④:税務署による審査

提出された申請書と書類は、税務署によって厳密に審査されます。この審査では、以下のような内容がチェックされます。

  • 物納の要件を満たしているか
  • 提出書類に不備はないか、
  • 物納財産が適格かどうか
  • 物納財産の評価額は適切か

審査の過程で、税務署から追加の資料提出や説明を求められることがあります。これらの要求には迅速かつ誠実に対応することが重要です。

また、物納財産の現地調査が行われる場合もあるため、物納申請中は財産の適切な管理を継続する必要があります。

審査期間は案件の複雑さによって異なりますが、通常3ヶ月以内に結果が通知されます。ただし、物納財産の現地調査などが必要な場合は、最長9ヶ月まで延長される可能性があります。

手順⑤:許可または却下の通知

審査の結果、物納申請が許可されるか却下されるかの通知が届きます。

許可された場合は、許可通知書が送付され、物納財産の引き渡し手続きについての指示がありますので、速やかにこの指示に従って手続きを進めましょう。

一方、却下された場合は、却下通知書が送付されます。却下の理由が記載されているので、よく確認する必要があります。

却下された場合でも、通知を受けてから20日以内であれば、別の財産で再申請することができます。

物納が許可された後は、速やかに物納財産を国に引き渡さなければなりません。引き渡しまでの間は、物納財産を適切に管理する責任が相続人にあることに注意が必要です。

なお、物納申請が却下された場合や一部しか認められなかった場合は、現金での納付や延納の手続きを検討する必要があります。

このような事態に備えて、物納申請と並行して他の納税方法も検討しておくことが賢明です。

物納財産の評価について

物納財産の評価方法は、相続税の計算や物納の可否に大きく影響します。正確な評価を行うことが、物納を成功させる鍵となります。

次項より、物納財産の評価に関する重要なポイントを解説します。

相続税評価額と時価の関係

物納財産の評価は、相続税の申告時に用いた相続税評価額を基準として行われます。

この相続税評価額は、一般的に実際の市場価格(時価)よりも低く設定されています。例えば、土地の場合、相続税評価額は概ね時価の80%程度とされています。

この評価額と時価の差は、物納を考える上で重要な要素となります。物納が許可された場合、財産は相続税評価額で国に引き取られるため、時価との差額が大きい場合は相続人にとって有利になる可能性があります。

逆に、評価額が時価を上回っている場合は、物納よりも売却して現金納付する方が有利かもしれません。

ただし、物納財産の引き渡し時に、相続時から価値が大きく変動している場合は、その時点での時価を考慮して評価額が見直されることがあります。

そのため、物納申請から許可、引き渡しまでの期間が長くなると、当初の想定と異なる結果になる可能性があることに注意が必要です。

小規模宅地等の特例適用時の注意点

小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅や事業用地などの評価額を大幅に減額できる制度です。この特例を適用すると、相続税評価額が通常の評価額から最大80%減額されます。

物納を検討する際、この特例適用後の評価額が物納財産の評価額となることに注意が必要です。

つまり、特例適用により評価額が大きく下がった不動産を物納に充てる場合、国に引き取られる価額も低くなります。

例えば、時価1億円、通常の相続税評価額8,000万円の宅地があり、小規模宅地等の特例で80%減額されると、物納時の評価額は1,600万円になります。

この場合、物納よりも売却して現金納付した方が有利な可能性が高くなります。

したがって、小規模宅地等の特例を適用している不動産の物納を検討する際は、特例適用後の評価額と実際の市場価格を比較し、慎重に判断する必要があります。また、物納申請時には特例適用の有無や適用割合について、明確に申告することが重要です。

物納に関する注意点

物納には以下のような注意点も存在します。

  • 申請が却下されるリスクがある
  • 物納財産の評価額が予想と異なる可能性がある
  • 手続きに時間と労力がかかる
  • 物納後に追加の税金が発生する場合がある
  • 物納財産の管理責任が残る

ここから、それぞれ個別にみていきましょう。

申請が却下されるリスクがある

物納申請は、必ずしも認められるとは限らず、申請が却下されるリスクは常に存在します。

まず、「申請書類の不備や記載内容の誤り」が挙げられます。物納申請には多くの複雑な書類が必要で、些細なミスでも却下の理由となり得ます。

また、物納の必要性が十分に説明できない場合も却下される可能性があります。現金や延納での納付が可能と判断されれば、物納は認められません。

さらに、申請した財産が物納不適格財産や物納劣後財産に該当する場合も却下されるリスクが高まります。例えば、権利関係が複雑な不動産や、管理・処分に多大なコストがかかる財産は「物納財産として適さない」と判断される可能性があります。

申請が却下された場合、「相続税を現金で納付する」「延納を申請する」などの代替手段を速やかに検討する必要があります。そのため、物納申請と並行して他の納税方法も検討しておくことが賢明です。

物納財産の評価額が予想と異なる可能性がある

物納財産の評価額は、相続税申告時の評価額を基準としますが、実際の物納許可までにタイムラグがあるため、その間に評価額が変動する可能性があります。特に不動産市場の変動が激しい時期や、経済情勢が不安定な時期には、現やすい問題です。

例えば、物納申請時に1億円と評価された不動産が、許可時に8,000万円に下落していた場合、差額の2,000万円分は現金で納付する必要が生じる可能性があります。

逆に、評価額が上昇した場合は、超過分が還付されることになりますが、この場合も手続きが複雑になる可能性があります。

また、相続税評価額と実際の市場価格(時価)との乖離が大きい場合、物納後に予想外の結果となることもあります。例えば、相続税評価額より実際の市場価格が大幅に高い場合、物納によって本来得られたはずの利益を失いかねません。

手続きに時間と労力がかかる

物納の手続きは、一般的な相続税の現金納付と比べて、はるかに複雑で時間がかかります。

申請から許可までの期間は通常3ヶ月程度ですが、案件によっては9ヶ月以上かかることも珍しくありません。

この間、申請者は多くの書類作成や資料収集に追われることになります。例えば「物納財産の詳細な情報を記載した目録の作成」「金銭納付困難であることの理由書の準備」「財産の評価に関する資料の収集」など、多岐にわたる作業が必要です。

さらに、税務署からの追加資料の要求や質問への対応、場合によっては財産の現地調査への立ち会いなども求められます。

これらの対応には迅速さと正確さが要求されるため、申請者にとっては大きな負担となります。

また、物納申請中も相続税の納付期限は延長されないため、申請が却下された場合に備えて、並行して他の納税方法も検討しておく必要があります。このような複数の選択肢を同時に準備することも、申請者の負担を増加させる要因となります。

物納後に追加の税金が発生する場合がある

物納が許可され、財産を国に引き渡した後でも、追加の税金が発生する可能性があることを認識しておきましょう。これは主に、物納財産の評価額と実際の換価額(国が財産を売却して得た金額)との差額から生じます。

例えば、物納財産の評価額が1億円で、これによって1億円の相続税を納付したとします。

しかし、国がこの財産を売却した結果、実際の換価額が1億2,000万円だった場合、差額の2,000万円は相続人に還付されます。この還付金は、一時所得として所得税の課税対象となる可能性があります。

逆に、換価額が評価額を下回った場合、その差額を相続人が追加で納付しなければならないケースもあります。例えば、評価額1億円の財産を物納したが、実際の換価額が8,000万円だった場合、差額の2,000万円を相続人が現金で納付する必要が生じる可能性があります。

物納財産の管理責任が残る

物納申請を行った後も、許可が下りて国に財産が引き渡されるまでの間は、申請者に財産の管理責任があります。

この期間は数ヶ月から場合によっては1年以上に及ぶこともあり、その間適切に財産を管理し、価値を維持する必要があります

例えば、物納申請した不動産が建物の場合、申請中に火災や自然災害によって損壊した場合、修繕や建て替えの責任は申請者にあります。

また、土地の場合も、雑草の繁茂や不法投棄の防止など、適切な管理が求められます。

さらに、物納申請中の財産から収益が発生する場合(例:賃貸不動産からの家賃収入)、その取り扱いについても注意が必要です。原則として、この収益は申請者のものとなりますが、物納許可後の精算の際に考慮される場合があります。

不動産の物納と売却の比較

不動産の物納と売却は、それぞれメリットとデメリットがあります。どちらを選択するかは、個々の状況に応じて慎重に判断する必要があります。

前述のとおり、物納は相続税評価額で納税できる点がメリットです。一般的に、相続税評価額は市場価格よりも低いため、有利になる可能性があります。

一方、売却のメリットは、市場価格で売却できる可能性がある点です。相続税評価額よりも高い価格で売却できれば、納税後も手元に現金が残る可能性があります。また、売却手続きは物納よりも一般的に簡単で、時間もかかりません。

例えば、相続税評価額8,000万円、市場価格1億円の不動産があるとします。物納の場合、8,000万円の納税で済みますが、売却できれば1億円を得て、8,000万円を納税し、2000万円が手元に残る可能性があります。

ただし、売却にはコストがかかり、また譲渡所得税の支払いも必要です。売却には、適切な買主が見つからないリスクや、市場価格の変動リスクがあります。

まとめ

相続税の物納制度は、現金納付が困難な相続人にとって重要な選択肢となります。しかし、物納には複雑な手続きや厳格な審査、財産評価の問題など、さまざまな課題があることを理解しておく必要があります。

物納を検討する際は、自身の経済状況や相続財産の性質、将来の見通しなどを総合的に考慮し、慎重に判断することが重要です。

また、物納と売却のメリット・デメリットを比較し、自身にとってより有利な方法を選択することも大切。物納制度の利用は、相続税の納付問題を解決する1つの手段ですが、同時に新たな課題をもたらす可能性もあります。

そのため、物納を検討する際は、税理士や弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。

この記事の監修者

監修者プロフィール写真

丸岡 智幸(宅地建物取引士)

訳あり不動産の買取を専門にする会社の代表取締役。
相続やペアローンによる共有持分、空き家、再建築不可物件、借地、底地など、権利関係が複雑な不動産の買取を専門としている。
訳あり不動産の買取サービス「ワケガイ」、空き家、訳あり不動産CtoCプラットフォーム「空き家のURI・KAI」を運営。
買取の経験をもとに、訳あり不動産の解説をする著書『拝啓 売りたいのに家が売れません』を2024年5月2日に出版。

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