親族間での不動産の低額譲渡や債務免除、生命保険金の受け取りなど、形式的には贈与ではないものの、実質的に贈与と同様の経済効果がある取引では、思わぬ税金が発生する可能性があります。このような場合に適用されるのが「みなし贈与」です。
みなし贈与とは、当事者間に贈与の意思がなくても、経済的利益の移転があった場合に贈与とみなして課税する仕組みです。みなし贈与を理解せずに取引を行うと、予期せぬ贈与税の納付義務が生じるリスクがあります。
そこで本記事では、みなし贈与の定義や仕組み、適用されるケースなどについて詳しく解説します。
目次
みなし贈与の定義と仕組み
みなし贈与は、相続税法上の重要な概念です。この制度を理解することで、贈与税の課税範囲がより広いものであることが分かります。まずは、通常の贈与との違いを明確にすることで、みなし贈与の特徴を浮き彫りにしていきましょう。
通常の贈与との違い
みなし贈与は、相続税法において特別に規定された概念です。通常の贈与が贈与者と受贈者の明確な合意に基づいて行われるのに対し、みなし贈与は当事者間に贈与の意思がなくても、経済的利益の移転があった場合に贈与とみなして課税する仕組みです。
この制度の背景には、相続税の補完税としての贈与税の性質があります。相続税を回避するために生前贈与が行われることを防ぐ目的で、贈与税はより高い税率が設定されています。
しかし、形式的には贈与ではないものの、実質的に贈与と同様の経済効果がある取引も存在します。そこで、このような取引にも適切に課税するために、みなし贈与の概念が導入されたのです。
例えば、親が子に対して時価より著しく安い価格で不動産を売却した場合、その差額分は実質的に贈与と同じ効果があるとみなされます。
また、債務の免除や生命保険金の受取など、直接的な財産の移転がなくても、経済的利益の享受があれば、みなし贈与の対象となる可能性があります。
このように、みなし贈与は形式にとらわれず、実質的な経済的利益の移転に着目して課税を行う仕組みです。
これにより、租税回避を防止し、公平な課税を実現することが期待されています。ただし、その適用範囲は必ずしも明確ではなく、個々の事案に応じて慎重に判断する必要があります。
みなし贈与が適用されるケース
みなし贈与は、直接的な贈与行為がなくても経済的利益の移転があった場合に適用される制度です。その適用範囲は広範にわたり、さまざまな取引や状況で発生する可能性があります。
具体的には、以下のようなケースです。
- ケース①:低額譲渡
- ケース②:債務免除
- ケース③:生命保険金の受け取り
- ケース④:法人を介した間接的な利益移転
それぞれ個別に解説します。
ケース①:低額譲渡
財産を時価よりも著しく低い価額で譲渡した場合、その差額分が贈与とみなされます。
例えば、市場価値が5,000万円の不動産を親が子に3,000万円で売却したとしましょう。この場合、2,000万円分の経済的利益が子に移転したとみなされ、この金額に対して贈与税が課税されます。
低額譲渡は、不動産取引だけでなく、株式や美術品などさまざまな資産の売買で発生する可能性があります。特に親族間の取引では、税務署から厳しくチェックされる傾向にあるため、注意が必要です。
ケース②:債務免除
債権者が債務者の借金を免除した場合も、その免除された金額分が贈与と判断されます。
具体的な例を挙げると、親が子に1,000万円を貸し付けていたものの、その返済を全額免除したとします。この場合、1,000万円分の経済的利益が子に移転したとみなされ、贈与税の課税対象となります。
債務免除には完全な免除だけでなく、一部免除も含まれます。例えば、1,000万円の借金のうち800万円を免除した場合、800万円分がみなし贈与の対象となります。
ただし、債務者が資力を喪失し、返済が困難であると明らかな場合は、例外的にみなし贈与の対象外となることがあります。この判断には債務者の財産状況や収入状況など、総合的な事情が考慮されます。
ケース③:生命保険金の受け取り
生命保険金の受け取りにおいても、みなし贈与が適用される場合があります。具体的には、保険契約者(保険料負担者)と保険金受取人が異なるケースです。
例えば、父親が契約者となって息子を受取人とする生命保険に加入し、満期時に息子が保険金を受け取ったとします。この場合、息子が受け取った保険金は、父親からの贈与とみなされる可能性があります。
ただし、みなし贈与の対象となる金額は、受け取った保険金全額ではありません。保険料のうち受取人が負担していない部分に相当する金額が贈与とみなされます。
また、死亡保険金の場合は、みなし贈与ではなく相続税の課税対象となります。ここでは、相続税の計算上特別な控除が適用されるため、課税金額が軽減されます。
ケース④:法人を介した間接的な利益移転
法人を介した間接的な利益移転も、みなし贈与の対象となることがあります。これは、個人間の直接的な取引ではなく、法人を通じて実質的に個人に利益が移転する場合を指します。
例えば、同族会社の増資の際に、特定の株主だけが新株を引き受ける権利を与えられるケースがあります。この場合、その特定の株主は実質的に経済的利益を得ていると考えられ、みなし贈与の対象となる可能性が懸念されます。
また、法人間の資産の低額譲渡なども、最終的に個人株主に利益が移転していると判断されれば、みなし贈与の対象となることがあります。
このような法人を介した取引は、その仕組みが複雑で判断が難しい場合が多いため、専門家のアドバイスを受けることが大切です。税務当局も、こうした間接的な利益移転に対して注意を払っており、取引の実態に基づいて課税判断を行う傾向にあります。
みなし贈与の判断基準
みなし贈与の適用は、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。その判断基準は、法律や通達で明確に定められているものもあれば、過去の判例や実務上の取り扱いによって形成されてきたものもあります。
ここでは、みなし贈与を判断する上で特に重要な3つの基準について詳しく解説します。
「著しく低い価額」の目安
前述のとおり「著しく低い価額」の判断は、みなし贈与の適用を決める重要な基準の1つです。しかし、この「著しく低い」という表現は抽象的で、具体的な数値基準が法律で定められているわけではありません。
実務上は、時価の80%未満で取引が行われた場合に、「著しく低い価額」と判断される傾向にあります。この基準は、東京地方裁判所の平成19年8月23日の判決を参考にしています。ただし、この80%という数値は絶対的なものではなく、あくまで目安に過ぎません。
実際の判断では「取引の性質」「当事者の関係」「市場の状況」など、さまざまな要素が考慮されます。
例えば、不動産の売買であれば、その不動産の特殊性や取引時の市場動向なども判断材料となります。また、株式の場合は、会社の業績や将来性、株式市場の動向なども考慮されるでしょう。
重要なのは、形式的な数値だけでなく、取引の実質や経済的合理性を総合的に判断することです。税務当局も、単に80%という基準だけで機械的に判断するのではなく、個々の事案の特性を踏まえて判断を行います。
利益の授受の関係性
みなし贈与の適用には、利益を受けた者と利益を受けさせた者の間に一定の関係性が争点となります。ただし、この関係性は必ずしも直接的なものである必要はありません。
典型的なケースでは、親族間や同族会社の株主間など、密接な関係にある者の間での取引が対象となります。
しかし、近年の裁判例では、直接的な利益の授受がなくても、実質的に贈与と同様の経済的利益の移転があれば、みなし贈与の対象になると判断されています。
例えば、法人を介した間接的な利益移転の場合、形式的には法人間の取引であっても、その背後にある個人株主間の利益移転が認められれば、みなし贈与とされる可能性があります。
この判断には、取引の経済的実質や当事者間の特別な関係性が重要な要素となります。
裁判所は、「関係する者の間の事情に照らし、実質的にみて、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合」にみなし贈与の適用があると判断しています。この解釈により、形式的には直接の利益授受がなくても、実質的な経済的利益の移転があれば、みなし贈与の対象となる可能性が広がっています。
租税回避の意図は不要
みなし贈与の適用において、重要なポイントの1つが、租税回避の意図の有無は問われないという点です。つまり、当事者が意図的に税金を逃れようとしたかどうかは、みなし贈与の判断基準とはなりません。
この考え方の背景には、相続税法の目的があります。相続税法は、財産の無償の移転に対して公平に課税することを目的としています。したがって、取引の結果として経済的利益の移転があれば、その意図に関わらず課税の対象となるのです。
例えば、親が子に対して市場価格よりも安く不動産を売却したとします。この場合、たとえ親子間で「贈与」の意思がなく、純粋に経済的な理由で安く売却したとしても、その価格差分はみなし贈与の対象となる可能性があります。
この原則は、東京地方裁判所の平成19年8月23日の判決でも確認されています。裁判所は、以下のように判示しています。
“租税負担の回避を目的とした財産の譲渡に同条が適用されるのは当然であるが、租税負担の公平の実現という同条の趣旨からすると、租税負担回避の意図・目的があったか否かを問わず、同条の適用がある”
みなし贈与にかかる「贈与税」の計算方法
贈与税の計算は、まず贈与財産の価額から基礎控除額を差し引いて課税価格を算出し、それに税率を乗じて税額を求めます。基礎控除額は年間110万円で、これを超える部分に対して贈与税が課税されます。
税率は、課税価格に応じて10%から55%まで段階的に上がっていきます。ただし、直系尊属から20歳以上の者への贈与については、特例税率が適用され、最高税率が45%になります。
計算式は以下のとおりです。
- 贈与税額 = (贈与財産の価額 – 基礎控除額110万円) × 税率 – 控除額
ここで注意が必要なのは、同年中に複数の贈与を受けた場合、それらを合算して計算する点です。これは、みなし贈与と通常の贈与を合わせて受けた場合も同様です。
みなし贈与の場合の計算例
みなし贈与の場合、贈与財産の評価が重要になります。例えば、低額譲渡の場合、時価と実際の取引価格との差額が贈与財産の価額となります。
具体的な計算例をみてみましょう。
<例:父親が時価5,000万円の不動産を子供に3,000万円で売却した場合>
- みなし贈与額の算出:5,000万円 – 3,000万円 = 2,000万円
- 課税価格の計算:2,000万円 – 110万円(基礎控除) = 1,890万円
- 税額の計算:
- 直系尊属からの贈与なので、特例税率を適用
- 1,890万円 × 40% – 190万円(控除額) = 566万円
この例では、贈与税額は566万円となります。
みなし贈与の場合、特に注意が必要なのは、当事者が贈与の意図を持っていなくても、この税額が発生する点です。そのため、取引を行う際は、常にみなし贈与の可能性を念頭に置く必要があります。
みなし贈与を回避する方法
みなし贈与は、意図せずに高額な贈与税を課されるリスクが懸念されます。そのため、なるべく以下の方法で回避を図りましょう。
- 適正な対価での取引を行う
- 贈与税の非課税枠を活用する
次項より、詳しく解説します。
適正な対価での取引を行う
みなし贈与を回避する最も確実な方法は、適正な対価での取引を行うことです。「適正な対価」とは、一般的に時価と同等、もしくはそれに近い金額を指します。
不動産取引の場合、適正な価格を決定するために、不動産鑑定評価を利用することが有効です。専門家による客観的な評価額を基に取引価格を設定することで、「著しく低い価額」でないことを示せます。
株式の場合は、上場株式であれば市場価格を参考にし、非上場株式であれば専門家による株価算定を行いましょう。
ただし、時価の80%以上であれば必ず安全というわけではありません。取引の背景や当事者の関係性によっては、80%を超える価格でも前述した「著しく低い価額」と判断される可能性があります。そのため、可能な限り時価に近い金額で取引を行うことが重要です。
また、取引の経緯や価格設定の根拠を書面で残しておくことも有効です。後日、税務調査があった際に、取引の正当性を説明する資料として活用できます。
贈与税の非課税枠を活用する
贈与税にはさまざまな非課税制度があり、これらを活用することでみなし贈与のリスクを軽減できます。
最も基本的なのは、年間110万円の基礎控除です。この範囲内であれば、贈与税は課税されません。例えば、毎年110万円ずつ贈与を行う「暦年贈与」は、長期的な財産移転の手段として有効です。
また、特定の目的に応じた非課税制度もあります。例えば、住宅取得資金の贈与では、最大3,000万円まで非課税となる特例が挙げられます。この特例を利用すれば、住宅購入のための資金提供をみなし贈与のリスクなく行えます。
教育資金の一括贈与制度も有効です。この制度では、1,500万円まで非課税で教育資金を贈与できます。孫への贈与も対象となるため、世代間の資産移転にも活用できます。
結婚・子育て資金の一括贈与制度も同様に、1,000万円まで非課税で贈与できます。
法人の資本取引におけるみなし贈与の注意点
法人の資本取引は、直接的な個人間の財産移転ではないため、みなし贈与の適用について判断が難しい場合があります。
しかし、実質的に個人株主間で経済的利益の移転が生じているとみなされれば、みなし贈与の対象となる可能性が懸念されます。
ここでは、特に注意が必要な次の3つの場面について解説します。
- 増資時
- 合併時
- 自己株式取得時
以下より、個別にみていきましょう。
増資時
増資時には、特に株主間の持株比率の変動に注意が必要です。例えば、特定の株主だけが新株を引き受ける場合や、著しく高額な払込金額で増資を行う場合、みなし贈与の問題が生じる可能性があります。
具体的には、時価よりも高い価額で新株を発行し、特定の株主がそれを引き受けた場合、その株主から他の株主へ経済的利益が移転したとみなされる可能性があります。この場合、高額払込みを行った株主から他の株主へのみなし贈与として扱われかねません。
また、株主の中に新株引受権を放棄する者がいる場合も留意しましょう。その結果、特定の株主の持株比率が増加し、実質的な経済的利益の移転が生じたと判断されれば、みなし贈与の対象となる可能性があります。
このようなリスクを回避するためには、増資の際には全株主に平等に新株引受権を与え、払込金額も適正な価格に設定することが重要です。また、増資の目的や経緯を明確に文書化しておくことも、後日の説明に役立つでしょう。
合併時
会社の合併時には、合併比率の設定が重要なポイントとなります。不適切な合併比率は、実質的に一方の会社の株主から他方の会社の株主への経済的利益の移転とみなされ、みなし贈与の対象となる可能性があります。
例えば、A社とB社が合併する際、A社の企業価値を不当に低く、B社の企業価値を不当に高く評価して合併比率を決定した場合、A社の株主からB社の株主へ経済的利益が移転したとみなされる可能性があります。
このリスクを回避するためには、合併比率の決定に際して、客観的かつ合理的な方法で企業価値を算定することが重要です。第三者機関による株価算定書を取得したり、デューデリジェンスを実施したりすることで、合併比率の妥当性を裏付けることができます。
また、合併の目的や経緯、合併比率の算定方法などを詳細に文書化しておくことも重要です。これらの資料は、後日税務当局から質問を受けた際の説明資料として有用です。
自己株式取得時
自己株式の取得は、株主間の持株比率に変動を生じさせる可能性があるため、みなし贈与の観点から注意が必要です。特に、特定の株主からのみ自己株式を取得する場合や、時価と大きく乖離した価格で取得する場合にリスクが高まります。
例えば、会社が特定の株主から時価よりも高い価格で自己株式を取得した場合、その株主は経済的利益を得る一方で、他の株主の持株の価値は相対的に低下します。この場合、自己株式を売却した株主から他の株主へのみなし贈与と判断される可能性があります。
逆に、時価よりも著しく低い価格で自己株式を取得した場合、その株主から会社へ、ひいては他の株主への経済的利益の移転があったとみなされかねません。
このようなリスクを回避するためには、自己株式の取得を行う際には、全株主に平等に機会を与え、取得価格も適正な価格に設定することが重要です。また、自己株式取得の目的や経緯、価格決定の根拠などを明確に文書化しておくことも有効です。
みなし贈与が起こりかねないライフイベント
人生の節目となるライフイベントでは、家族間での金銭的な援助や財産の移動が発生しやすくなります。しかし、これらの行為が思わぬみなし贈与として課税対象になる可能性があります。
ここでは、特に注意が必要な3つのライフイベントについて詳しく解説します。
- 子どもの結婚時における親からの支援
- 親の介護に伴う金銭的援助や債務の引き受け
- 退職金受給時の家族への資産分配
それぞれ個別にみていきましょう。
子どもの結婚時における親からの支援
子どもの結婚は、親が経済的な支援を行いたくなる典型的なケースでしょう。しかし、その支援方法によっては、みなし贈与の対象となる可能性があります。
例えば、結婚資金として多額の現金を贈与する場合、年間110万円を超える部分については贈与税の対象となります。また、新居購入のために親が住宅ローンの連帯保証人になることも、将来的にみなし贈与のリスクがあります。
親が子どもの住宅ローンを肩代わりして返済した場合、その返済額が贈与とみなされる可能性があるためです。
一方で、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を利用すれば、最大1,000万円まで贈与税がかかりません。ただし、この制度を利用する場合は、専用の金融口座を開設するなど、所定の手続きが必要です。
結婚指輪や家具などの贈与も、高額な場合はみなし贈与の対象となる可能性があります。これらの物品贈与は、市場価値で評価されるため、注意が必要です。
親の介護に伴う金銭的援助や債務の引き受け
親の介護が必要になった場合、子どもが経済的な支援を行うケースが増えています。しかし、この善意の行為が思わぬみなし贈与として扱われる可能性があるため留意が必要です。
例えば、親の介護施設の利用料を子どもが負担する場合、その金額が高額になると贈与とみなされることが懸念されます。ただし、生活費や医療費として社会通念上妥当な範囲内であれば、贈与税の対象外となります。
また、親の借金を子どもが肩代わりして返済するケースも要注意です。債務の免除や肩代わりは、みなし贈与の典型例とされています。例えば、親が1,000万円の借金を抱えており、子どもがそれを全額返済した場合、1,000万円の贈与があったとみなされる可能性があります。
介護のために親の所有する不動産を子どもが無償で使用する場合も、その賃料相当額がみなし贈与として扱われる可能性があるのです。ただし、同居して介護を行う場合など、合理的な理由がある場合は、みなし贈与とされないケースも存在します。
退職金受給時の家族への資産分配
退職金の受給は、まとまった資金を得る機会であり、家族への資産分配を考える人も多いでしょう。しかし、分配方法によっては、みなし贈与の問題が発生する可能性があります。
例えば、退職金を受け取った後に、その一部を配偶者や子どもの口座に移す場合、年間110万円を超える部分は贈与税の対象となります。特に退職金は高額になりやすいため、注意が必要です。
退職金を利用して生命保険に加入する際も注意が必要です。例えば、契約者を退職者本人、受取人を配偶者や子どもにした場合、将来の保険金受取時にみなし贈与として扱われる可能性があります。
これらのリスクを回避するためには、相続時精算課税制度を利用するなど、計画的な資産移転を検討することが重要です。また、配偶者への贈与については、最大2,000万円まで非課税となる配偶者控除の制度を活用する方法もあります。
みなし贈与についてのよくある質問
みなし贈与に関しては、日常生活の中でさまざまな疑問が生じることが多いです。ここでは、特によく寄せられる二つの質問について詳しく解説します。
家族間の金銭貸借はどこまでOK?
家族間での金銭の貸し借りは日常的に行われていますが、これがみなし贈与と判断されるケースがあります。一般的に、以下のような点に注意が必要です:
- 利息の設定:無利息や極端に低い利率での貸付は、利息相当額がみなし贈与とされる可能性が高い。
- 返済期間:長期間にわたる貸付は、実質的な贈与とみなされる可能性が高まる。
- 返済能力:借主に返済能力がない場合、貸付ではなく贈与とみなされる可能性がある。
- 書面の作成:貸借契約書を作成し、返済計画を明確にしておくことが重要。
例えば、親が子に1,000万円を5年間無利息で貸し付ける場合、年間の利息相当額(仮に年利1%とすると10万円)は基礎控除額内ですので、問題ないでしょう。しかし、1億円を無利息で貸し付けると、年間の利息相当額が基礎控除額を超えるため、みなし贈与のリスクが高まります。
会社役員の家賃補助はみなし贈与?
会社が役員に対して行う家賃補助も、みなし贈与の対象となる可能性があります。この問題については、以下のような点を考慮しましょう。
- 補助額の妥当性:市場相場と比較して著しく高額な家賃補助は、みなし贈与とされる可能性が高い。
- 福利厚生制度との関係:会社の福利厚生制度として合理的な範囲内であれば、給与所得として扱われる可能性が高い。
- 役員以外の従業員との公平性:役員のみに特別な家賃補助を行っている場合、みなし贈与と判断されるリスクが高まる。
- 補助の目的と必要性:会社の事業遂行上の必要性から行われている場合は、みなし贈与とされにくい。
具体例を挙げれば、会社の事業所近くに役員が居住することが業務上必要であり、そのための家賃補助を行う場合は、みなし贈与とされる可能性は低くなります。
一方、役員の個人的な住居選択に基づく高額な家賃を会社が全額負担するようなケースでは、みなし贈与と判断される可能性が高くなります。
これらの問題を回避するためには、家賃補助の目的や金額の根拠を明確に文書化し、社内規定を整備しておくことが重要です。また、役員報酬の一部として家賃補助を位置づけ、適切に源泉徴収を行うなどの対応も考えられます。
不安な場合は専門家に相談しよう
みなし贈与の判断は複雑で、個々の状況によって大きく異なります。特に法人の資本取引に関しては、その仕組みが複雑であり、素人判断では見落としがちな点も多くあります。そのため、取引を行う際に少しでも不安がある場合は、専門家に相談することを強くお勧めします。
税理士や弁護士などの専門家は、みなし贈与に関する最新の法令解釈や判例を熟知しています。彼らのアドバイスを受けることで、思わぬ税負担を避けられるだけでなく、適切な節税策を立てることもできるでしょう。
専門家への相談は、取引の計画段階で行うことが最も効果的です。事前に相談することで、みなし贈与のリスクを最小限に抑えた取引スキームを構築できます。
また、取引後に問題が生じた場合の対応策についても、事前に助言を得ておきましょう。
さらにいえば、専門家は税務当局との交渉経験も豊富です。万が一、税務調査が入った際にも、適切な対応をサポートしてくれるでしょう。
まとめ
みなし贈与は、相続税や贈与税の回避を防ぐために設けられた制度です。しかし、その適用範囲は広く、意図せずに贈与税の課税対象となってしまうケースも少なくありません。特に、法人の資本取引や親族間での財産移転では、細心の注意が必要です。
みなし贈与を回避するためには、取引の経済的実質を常に意識し、適正な対価での取引を心がけることが重要です。また、贈与税の非課税枠を活用するなど、適切な税務戦略を立てることも効果的です。
ただし、みなし贈与の判断は複雑で、個々の状況によって大きく異なります。特に法人の資本取引に関しては、その仕組みが複雑であり、素人判断では見落としがちな点も多くあります。
したがって、財産移転や法人の資本取引を検討する際は、事前に税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家のアドバイスを受けることで、思わぬ税負担を避けられるだけでなく、適切な節税策を立てることができるでしょう。