共有持分【基礎知識】

共有持分の放棄の同意を得られない場合の「訴訟」について詳しく紹介

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不動産を共有する際に生じ得る複雑な問題の1つが、共有持分の放棄です。共有持分放棄は、共有者1人が自らの持分を放棄し、残る共有者にその持分が移転する法的行為を指します。

しかし、このプロセスは単純ではなく、特に他の共有者の協力が得られない場合、法的手続きを要することがあります。

そこで本記事では、共有持分の放棄の概要や必要な費用について解説します。

共有持分の放棄とは

共有持分は、複数の人が1つの不動産を共有している際に各人が持つ所有権の割合を指します。この持分は、不動産の管理や利用、売却において重要な役割を果たします。

一方、共有持分の放棄は、自身が持つ不動産の共有持分を意図的に放棄し、その所有権を他の共有者に移転させる行為を意味します。

放棄には2つの主要な形態があり、「相続放棄」「共有持分放棄」がそれに該当します。相続放棄は、故人から継承される遺産全体を拒否することであり、共有持分放棄は、既に相続またはその他の理由で取得した不動産の持分を放棄する手続きを指します。

自分の持分のみなら単独で放棄可能

共有持分の放棄は、放棄を希望する共有者が自身の意思だけで行える単独行為です。これは、契約や贈与といった他者の同意を必要とする行為とは異なり、個人の意思決定で完結する法律行為に分類されます。

放棄した結果、放棄者の持分は自動的に残る共有者に按分され、民法第255条により、その持分は他の共有者に帰属すると定められています。

放棄いた持分は他の共有者に所有権が移る

放棄によって移転される持分は、残る共有者間でその割合に応じて再分配されます。例えば、3人の共有者がいる不動産で1人が持分を放棄する場合、放棄された持分は残る3人の共有者に按分され、新たな所有権の割合が形成されます。

これにより、放棄した共有者は不動産に対する権利と責任から解放され、残る共有者はより大きな持分を得ることになります。

共有持分放棄にかかる登記は「共同申請」が原則

共有持分の放棄は個人の判断で可能ですが、実際にその放棄を法的に確定させるための登記手続きには、他の共有者との協力が不可欠です。

不動産登記法により、共有持分放棄に関する登記は、放棄する共有者と放棄された持分を承継する共有者が共同で申請することが基本とされています(不動産登記法第60条)。

この共同申請の要件は、共有不動産の明確な所有権移転を目的としており、放棄行為を正式かつ法的に完結させるために設けられています。

登記を行えないリスクとは

登記手続きが適切に完了していない場合、放棄者は様々なリスクに直面する可能性があります。

共有不動産に関連する固定資産税は、通常、全共有者が持分に応じて分担します。登記が完了していないと、放棄したはずの持分に対しても税金の負担が続くことになります。

共有不動産に起因する第三者への損害が発生した場合、登記がなされていないと放棄者も損害賠償責任を負うリスクがあります。

さらに、登記が済んでいない場合、放棄者が亡くなった際に放棄されたはずの持分が相続財産として扱われる可能性があります。これは将来的に共有者間での確執や、不動産の売却・活用に関する合意形成が困難になる原因ともなり得るでしょう。

登記を拒否されたら「登記引取請求訴訟」が必要

共有持分の放棄に際して、放棄者が登記を完了させたいにも関わらず、他の共有者の協力が得られない場合には、法的手段を用いて解決することが可能です。

この法的手段として「登記引取請求訴訟」という訴訟が存在します。この訴訟は、放棄者が単独で登記手続きを進めることを可能にするもので、不動産登記法に基づく特別な手続きです。

例えば、共有名義の土地を所有しているAが自身の共有持分を放棄し、Bにその持分を移転させたいと考えている場合、本来ならばAとBの共同申請が必要になります。

しかし、Bが協力を拒否した場合、Aは「登記引取請求訴訟」により裁判所に訴え、判決を経て単独で登記手続きを行えます。このプロセスは、不動産登記法第63条1項によって支持されています。

登記引取請求権の時効

登記引取請求権は、無制限に行使可能なわけではありません。この権利は一定期間内に行使しなければ、消滅時効により失効する可能性があります。

具体的には、民法第166条に基づき、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年間」、あるいは「権利を行使できる状態になってから10年間」行使しなければ時効によって消滅します。

持分放棄のケースでは、放棄の意思表示をした日から5年が経過すると、登記引取請求訴訟を起こす権利が時効にかかります。放棄者は放棄の意思表示時に登記引取請求権が発生したことを認識するとみなされ、その後5年以内に訴訟を提起する必要があるのです。

意思表示は一方的に行えますが、時効を主張する際には、意思表示の日付が確定している文書(例えば内容証明郵便など)が有力な証拠となります。このような証拠を通じて、放棄の意思が明確に行われたことを立証することが重要です。

登記引取請求訴訟は、共有持分放棄における登記手続きが滞った際の有効な解決策を提供します。しかし、時効の制約もあるため、放棄の意思を持った共有者は、可能な限り迅速に行動することが望ましいでしょう。

登記請求権との違いに注意しよう

登記請求権は、不動産取引などで権利の移転が発生する際、権利を獲得する当事者(登記権利者)が権利を失う当事者(登記義務者)に対し、その権利移転の登記手続きを求めることができる法的権利を指します。

この権利は、例えば不動産売買において、買主が売主に対して所有権移転の登記を要求する場面で主に用いられます。

登記引取請求権は、権利の放棄や移転が発生した際に、権利を失う当事者(登記義務者)が権利を獲得する当事者(登記権利者)に対して、その権利放棄や移転の登記手続きを要求することができる権利です。

この権利は特に、共有持分の放棄が行われた際に、放棄者が残る共有者に対して持分移転登記を求める場面で活用されます。

登記請求権と登記引取請求権の主な違いは、「権利の移動方向」にあります。

登記請求権は権利を獲得する側が権利を失う側に対して登記を要求する権利であり、主に不動産の売買などの取引において用いられます。これに対し、登記引取請求権は権利を失う側が権利を獲得する側に対して登記を要求する権利であり、共有持分の放棄などの場合に関連します。

登記引取請求訴訟の流れ

登記引取請求訴訟を行う際の流れは、大きくは4つのステップに大別されます。

  • Step1.裁判所へ訴状を提出する
  • Step2.準備書面と証拠を提出する
  • Step3.口頭弁論
  • Step4.判決

それぞれ詳しくみていきましょう。

Step1.裁判所へ訴状を提出する

登記引取請求訴訟を開始する第一歩として、関連する法的事実や当事者情報を含む訴状を裁判所に提出します(民事訴訟法第133条1項)。

この訴状には、共有持分の放棄事実を明確に記載し、訴訟の根拠となる事実や法律関係を詳述する必要があります。訴状の提出先は、被告の居住地、不動産所在地、または該当不動産の登記を管轄する地方裁判所とされています(民事訴訟法第4条1項・2項、第5条12号・13号)。

Step2.準備書面と証拠を提出する

口頭弁論期日や準備手続きに向けて、当事者の主張を具体化した準備書面を提出します。この段階での明確で詳細な書面の準備は、裁判所に自己の立場を理解してもらうために非常に重要です。

放棄した共有持分の事実を裏付ける証拠として、内容証明郵便による通知書面などが有効となります。証拠提出は、訴えの根拠となる事実を証明するために不可欠です。

Step3.口頭弁論

口頭弁論期日には、裁判所で公開法廷が設けられ、当事者間での主張と立証が行われます。この過程では、事前に提出された準備書面と証拠を基に議論が進められ、裁判所は提出された証拠と主張から心証を形成していきます。

通常、口頭弁論や弁論準備期日は数回にわたって開催され、裁判所と当事者が十分な審理を行います。

Step4.判決

裁判所が登記引取請求権の有無およびそのほかの事実関係について判断を下した後、判決が言い渡されます(民事訴訟法第250条)。裁判所は場合によって和解を提案することがあり、当事者は和解に応じるか判決に従うかを選択できます。

第一審の判決に不服がある場合、判決書送付後2週間以内に高等裁判所へ控訴することが可能です(民事訴訟法第285条)。控訴期間内に控訴がなされない場合、判決は確定し、確定判決に基づき共有持分の放棄者は単独で登記手続きを進められます。

登記引取請求訴訟にかかる費用

登記引取請求訴訟にかかる費用としては、以下のものが挙げられます。

  • 弁護士費用
  • 司法書士費用
  • 裁判所への手数料

次項より、個別にみていきましょう。

弁護士費用

弁護士費用は法律事務所ごとに異なり、一概には言えませんが、一般的な報酬体系では「着手金」と「成功報酬」が基本です。

着手金は、依頼を開始する際に前払いされる費用で、20万円から30万円程度が相場とされています。

成功報酬は、依頼した案件が成功した際に支払われ、これは「経済的利益の一定割合」で計算されます。

特に不動産関連の案件では、不動産の価値に応じた「経済的利益」を基に算出されることが多いです。具体的な費用については、事前に複数の法律事務所に問い合わせることが推奨されます。

司法書士費用

司法書士費用は、大きく「登録免許税」「司法書士報酬」、そして「登記簿謄本や郵送料などの実費」に分けられます。

特に不動産の持分放棄に伴う移転登記の場合、登録免許税は「不動産の固定資産税評価額に対する持分割合」を基に計算され、「その評価額の2%」が一般的な税率です。

例えば、評価額1,000万円の不動産の半分を移転する場合、登録免許税は約10万円になります。司法書士報酬は事務所によって変動があり、土地一筆につき約3万円から7万円程度が相場です。

裁判所への手数料

民事裁判を起こす際には、裁判所に支払う手数料が発生します。この手数料は「訴額」に基づき算定され、訴額とは原告が訴訟を通じて得ようとする経済的利益を金額に換算したものです。

不動産登記訴訟の場合、訴額は不動産価値の半分とされ、以下のように手数料が定められています。

  • 100万円まで:10万円ごとに1,000円
  • 500万円まで:20万円ごとに1,000円
  • 1,000万円まで:50万円ごとに2,000円
  • 1億円まで:100万円ごとに3,000円

これらの費用は、法的手続きにおいて予想される基本的な経費であり、個々の案件の具体的な状況によって変動する可能性があります。したがって、正確な費用見積もりを得るためには、専門家に直接相談することが重要です。

まとめ

共有持分の放棄とそれに伴う登記引取請求訴訟は、不動産の共有者間で生じる問題を解決するための重要な法的プロセスです。

この手順を進めるには、裁判所への訴状提出から、準備書面と証拠の提出、口頭弁論、そして最終的な判決まで、多くの手続きが必要となります。加えて、弁護士や司法書士などの専門家に支払う費用も考慮しなければなりません。

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この記事の監修者

監修者プロフィール写真

丸岡 智幸(宅地建物取引士)

訳あり不動産の買取を専門にする会社の代表取締役。
相続やペアローンによる共有持分、空き家、再建築不可物件、借地、底地など、権利関係が複雑な不動産の買取を専門としている。
訳あり不動産の買取サービス「ワケガイ」、空き家、訳あり不動産CtoCプラットフォーム「空き家のURI・KAI」を運営。
買取の経験をもとに、訳あり不動産の解説をする著書『拝啓 売りたいのに家が売れません』を2024年5月2日に出版。

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