共有不動産の所有権問題は複雑であり、解決策を見つけるのは容易ではありません。問題解決の方法としては「共有者の持分を買い取る」「自分の持分を共有者や第三者に売却する」など、多様な手法が存在しますが、事前に権利関係をクリアにしておく必要があります。
そこで選択肢となるのが共有持分の「時効取得」です。本記事では共有持分の時効取得について詳しく解説しますので、ぜひお役立てください。
目次
共有持分の時効取得とは
時効取得とは、他人の物を所有の意思を持って公然と占有し続けることで、最終的にその物件の所有権を獲得する法的な手続きです。日本の民法では、時効取得は特定の条件下で認められています。
“20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する”
引用:e-Gov法令検索「民法」
一見すると、10年や20年の所有の意思があれば時効取得が可能に思えますが、実際には5つの厳格な要件を満たす必要があります。
共有持分の時効取得の成立条件
共有持分の時効取得が成立する条件としては、以下のとおりです。
- 占有期間が一定以上ある
- 平穏かつ公然な占有である
- 所有の意思がある
- 他主占有ではない
- 占有開始時に善意無過失である
次項より、詳しく解説します。
占有期間が一定以上ある
時効取得に必要な占有期間について、法律では10年または20年以上の期間が定められています。10年の占有期間が適用されるのは、「他人のものであると知らずに占有していた」という場合です。
一方で、占有開始時に物件が他人のものであることを知っていた場合は、20年以上の占有が必要となります。この期間は、所有権の時効取得を主張する上での基礎的な条件です。
平穏かつ公然な占有である
時効取得のためには、平穏かつ公然とした占有が必須です。つまり、所有者に対する高圧的な態度や暴力、脅迫等を伴う占有は、時効取得の対象とはなりません。
占有が長期に渡るだけでなく、その占有が第三者からも明白に認識できる形でなければなりません。例えば「長期間その場所に居住し、自分の家を建てている」といった行動は、「公然な占有」の証左となります。
所有の意思がある
時効取得には「自分が所有者である」という意識、すなわち所有の意思が必要です。他人が所有していると認識している場合は、時効取得は成立しません。
この所有の意思は感情的な側面だけでなく、具体的な行動、例えば固定資産税の支払いや、登記上の所有者としての認識などを通じて示されることが望ましいでしょう。
他主占有ではない
時効取得において、他主占有の状態では取得が認められません。例えば、賃貸人として他人の物件を占有している場合、その不動産が大家の所有であることが明らかなら、「他主占有」に該当します。時効取得には、占有者自身がその不動産を所有しているとの認識が必須です。
占有開始時に善意無過失である
時効取得においては、占有開始時にその物件が自分のものだと信じている「善意無過失」が条件となります。
この状態で10年間占有すれば時効取得が認められます。しかし、途中で他人の物であることが判明した場合、時効取得の要件は満たされません。
共有持分の時効取得が難しい理由
不動産の共有状況下で他の共有者の持分を時効取得することは非常に難しいのが実情です。
不動産を共有している場合、まずは「平穏かつ公然と」占有する必要があります。例えば、暴力なしに、相続をきっかけにその物件を自分の家として公然と占有することでこの要件を満たす可能性が考えられます。
共有状態では通常、「この不動産は共有である」との認識があるため、所有の意思の要件を満たすのは困難です。相続により不動産を取得した場合も、「共有の不動産を相続した」との認識があれば自己占有とはなりません。
共有不動産を時効取得できるのは、「相続時から自分だけの単独所有権を信じており、その後も単独で住み続け、物件の手入れや固定資産税の支払いを行い、他からの指摘がなかった場合」など、特殊な状況に限られます。
賃貸物件を相続した場合でも、物件からの収益を単独で受け取り続け、他から異議が出ない場合には、所有の意思が認められやすくなるでしょう。
共有持分の時効取得の手順
共有持分の時効取得は、以下の手順で行いましょう。
- 手順①: 時効の援用を行う
- 手順②:所有者移転登記をする
それぞれ詳しく解説します。
手順①: 時効の援用を行う
時効取得のプロセスでは、まず共有者に対して時効が成立していることを通知する「時効の援用」が必要です。
民法第145条には、時効を援用する必要があることが明記されています。これは、裁判所が時効を理由に判断を下すためには、当事者が時効を主張しなければならないという規定です。
共有者への時効成立通知は、書面にて行うのが一般的。送付には「内容証明郵便」を利用することが推奨されます。内容証明郵便は、郵便物の差出日時や内容が日本郵便によって証明される制度です。
手順②:所有者移転登記をする
時効の援用を行う過程で、共有者がすでに死亡していたり所在不明である場合があります。
このような状況では、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を求める手続きが必要です。不在者財産管理人は、不在者の代わりに財産の処分を行うことができる管理人で、家庭裁判所によって選任されます。
これについては、民法第25条で以下のように規定されています。
“第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする”
引用:e-Gov法令検索「民法」
共有持分の時効取得ができない場合の対処法
共有持分の時効取得ができない場合、次の対処法が有効です。
- 他の共有者の持分を買い取る
- 他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう
- 第三者に自分の持分を買い取ってもらう
以下より、詳しくみていきましょう。
他の共有者の持分を買い取る
共有不動産の完全な単独所有を目指す一つの方法は、他の共有者の持分を買い取ることです。時効取得が不可能でも、現在の占有者にとって他の共有者は不要と感じられるケースが多々あります。
共有者に対して買取を提案し、合意が得られれば、共有不動産を単独所有に変えられます。
他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう
買取価格を相場よりも大幅に低く設定すると贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります。贈与税は年間110万円以下の贈与に対して控除が適用されるため、この点を賢く利用するとよいでしょう。
逆に、自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう方法もあります。価格設定には贈与税を避けるよう注意が必要ですが、現在不動産を利用していない共有者が購入に同意する可能性は低い場合があります。
第三者に自分の持分を買い取ってもらう
建物が老朽化している場合、共有不動産の一括売却を検討することも1つの選択です。ただし、共有者全員の同意が必要で、売却後の利益は持分割合に応じて分配されるのが一般的です。
共有者間での買取が難しい場合は、第三者への売却を検討することも可能。共有持分専門の買取業者は共有持分の活用や収益化方法に精通しており、通常より高額で買い取ってもらえる可能性があります。
共有者間でトラブルがある場合や、共有持分の相場が不明確な場合には、共有持分専門の買取業者の利用が有効。これらの業者は、買取価格を適正に評価し、迅速な取引を提供します。査定を利用して、共有持分の市場価値を把握することから始めるのが良いでしょう。
まとめ
共有不動産の所有権問題は、その複雑さゆえに個々の状況に応じた適切な対応が求められます。「共有者の持分を買い取る」「自己の持分を他の共有者や第三者に売却する」「時効取得の検討」など、さまざまな選択肢があります。
それぞれの方法には利点と注意点があり、特に税金の問題や共有者間の合意が重要なポイントとなります。
最終的には、共有持分の売買や時効取得など、不動産に関連する複雑な問題を解決するためには、法律的な専門知識を有する専門家の意見を求めることが賢明です。不動産や税法に精通した弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。
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