不動産を共有している場合、物件を賃貸するにあたって、共有者間の合意や権利の分配、契約の取り決めは非常に重要となります。特に、共有不動産の賃貸に関しては収益の分配方法など、後々のトラブルを防ぐためにも把握しておくべき要素が多々存在します。
この記事では、共有不動産を賃貸する際の要点や注意点を詳しく解説しますので、ぜひお役立てください。
目次
共有持分は賃貸活用できるのか?
アパートやマンションなど、複数の人々が共有で所有する建物を賃貸として利用することは可能です。ただし、それを実現するためには、一定の要件をクリアする必要があります。
共有物の取り扱い方には、大きく「保存行為」「管理行為」「変更行為」という3つのカテゴリが存在し、それぞれの行為に適切な要件が法的に定められています。
例 | 同意が必要な共有者の数 | |
---|---|---|
保存行為 | 物件の修繕、維持などの行為で、元の状態を維持するための行為。 | 特定の共有者の同意なしで行える。つまり、1人の共有者でも行為をすることが可能。 |
変更行為 | 物件の改築や改修など、物件の性質や価値を変更する行為。 | 原則として全ての共有者の同意が必要。 |
管理行為 | 共有物の使用方法や収益の分配、管理方法の決定など。 | 共有者の過半数の同意が必要。 |
具体的には、保存行為とは、共有者全員の利益となるような行為を指し、共有物の修復や、その物件を不法に占拠する者に対する権利を行使する行為などがこれに該当します。
一方、管理行為は共有物の利用や改良を目的とした行為を指すもので、変更行為は、物の物理的変更や法律的な手続きを伴う行為を意味します。
ただし、これらの行為の境界は実際には非常に曖昧です。
例えば、共有建物の雨漏りを修理する場合を考えてみましょう。屋根の小さな補修だけなら保存行為とみなされるかもしれません。しかし、大幅な変更、例えば瓦屋根からトタン屋根に変更する場合、それは管理行為に該当するのか、それとも変更行為として全員の同意が求められるのか、その判断は難しくなります。
雨漏りの対応方法、例えば補修の範囲や工事の内容によって、共有者全員に与える影響や、それに伴う費用の負担は変わってきます。それらの費用は共有者が持分に応じて負担することが法的に定められています(民法253条1項)。
共有持分を賃貸活用するための方法
前述したとおり、ある行為が「保存」、「管理」、「変更」のいずれに該当するかの判断は、その行為の実質的な内容や影響に基づいて行われます。一つひとつのケースに応じて考慮されるべきであるため、一律の解釈を避けることが重要。
通常、建物の賃貸借契約が3年以内の「短期賃貸借」契約(民法602条3号)であれば、この行為は「管理」として捉えられやすいのですが、3年を超える契約期間の場合、「変更」としての評価が主流となります。
賃貸借契約自体は物件の所有を変えるものではありませんが、契約期間が長くなると、所有者がその物件を自由に利用することが制限され、まるで所有権を放棄したかのような状態が生じます。そこで、民法では特定のケースを除き、一般的に3年までの賃貸契約を容認しています。
この制定背景としては、3年以内の賃貸契約では、物件の所有者が受ける影響が相対的に小さいとされるためです。
具体的には、3年以内の短期賃貸借契約では、少ない持ち分を持つ共有者への影響が少ないとされ、「管理」として、共有者の持ち分の過半数の同意で進められるケースが多々あります。
3年を超える契約では、持ち分の少ない共有者への影響が大きいため、「変更」として、共有者全員の同意が必要となることが一般的です。
ただし、現実的には、「借地借家法」の適用を受ける建物の賃貸借契約が主流となっています。この法律は、借主の権利を強く保護する内容を持っており、その適用下では、正当な理由がない限り、借主に退去を求めることができないため、短期賃貸契約であっても長期化するリスクがあるのです。
この点を考慮すると、実際の賃貸借契約は「変更」としての側面が強いと捉えるべきですが、最終的には共有者に及ぼす実質的な影響を元に「管理」か「変更」かの判断がなされるため、注意が必要です。
他の共有者が反対した場合は?
もし、共有建物の賃貸借契約が「管理行為」としての要件を満たしている場面で、持ち分が少ない共有者が反対する場面が生じたとしたら、具体的にはどのような法的結果が待っているのでしょうか。
持分価格の過半数という要件を満たしていれば、賃貸借契約は合法的に成立しており、借主は当該建物の利用や利益を享受する権利を有します。そのため、反対の立場にある共有者が借主に対し、物件の明渡しを求めることは認められません。
しかしながら、反対の立場の共有者も、その持分に応じた賃料を受け取る権利は確立されています。通常、賃料は契約締結を進めた共有者に支払われるので、反対の共有者は、その共有者に対し不当利得を根拠とした金銭の返還を求めることができます(参照:民法703条、704条)。
一方、「管理行為」の場合は要件を満たしていない。あるいは「変更行為」で一部の共有者の同意が得られなかった場合は、契約の有効性に欠けるため、当該契約は無効と評価されます。
要件を満たしていない無効な賃貸借契約に基づき、借主が物件に入居している場合は、不法占拠として、共有者が明渡しを請求できます。加えて、入居していた期間における利益に相当する金額も請求可能。
さらに、仮に借主が一部の共有者に賃料を支払っていた場合、借主からの賠償請求は発生しませんが、その共有者には他の共有者から不当利得を根拠にした金銭の返還を求めることが許されます。
借主は、無効な契約によって余分な出費や、明渡しに伴う損害を被った場合、契約を締結した共有者に対して、これらの損害を補償するための請求できます。
共有持分の賃貸でも必ず賃貸借契約書を作成しよう
賃貸借契約書とは、「賃貸人(例:大家や不動産会社)」と「賃借人(例:テナントや住人)」が、不動産を一定期間利用するための取り決めを文書にしたものです。
国土交通省の公式サイトから「賃貸住宅標準契約書」を参照・ダウンロードできます。この標準契約書には、「家賃債務保証業者型」「連帯保証人型」の2種類の雛形があります。
賃料の未払いリスクを考慮して、保証会社や連帯保証人の設定を推奨します。ただし、賃借人が信頼できる関係者であれば、保証人を設定しない選択もあります。その場合、「連帯保証人型」の雛形を利用し、連帯保証人欄に「無し」と記入します。
共有不動産を賃貸する際には、「貸主」と「建物の所有者」の部分に、共有者全員の詳細を正確に記入することが重要です。個別に契約を結ぶ必要はありません。
賃貸借契約書の作成目的
契約は口頭でも成立することは可能ですが、賃貸借契約書の作成には重要な意義があります。書面化することで、賃借人との間にトラブルが生じた場合の解決の方針や基準を明確にできます。
具体的には、賃貸人と賃借人双方が納得の上で契約内容を定め、その取り決めを書面で残すことは、未来のトラブルの予防や解決に役立ちます。
例えば、ペットの飼育に関する問題を考えてみましょう。契約書に「ペットの飼育禁止」と明記していない場合、法的には賃借人がペットを飼うことが可能になり得ます。
近隣の迷惑となるような飼育や、社会的に許容されない飼育状況であれば、賃貸人が介入できますが、明確な契約書が存在しない場合、賃借人からの主張に対して反論するのが難しくなるかもしれません。
このように、書面での契約は、双方の権利と義務を明確にし、後のトラブルを防ぐ手助けとなります。賃貸借契約時には、標準契約書をベースに、双方の合意内容を加筆・修正し、書面として取り交わすことを強く推奨します。
共有持分の賃貸借契約書を作成する場合のポイント
共有持分の賃貸借契約書を作成する場合、以下の点に留意しましょう。
- 契約内容を確認する
- 共有者全員の情報を記載する
次項より、それぞれ個別に解説します。
契約内容を確認する
契約を締結する前に、契約書の詳細を十分に確認しましょう。特に、雛形を利用して賃貸借契約を進める場合、その内容に合わせて追記や削除が必要になることが考えられます。
雛形には基本的な条項のみが含まれているため、具体的な取り決めや条件に合わせて修正を加えることが重要です。
<追記する項目例>
- 契約期間
- 更新条項
- 賃料の見直し
- 敷金・礼金の額や条件
- 保証人の要否
- ペットの飼育に関する条項
- 室内の改築・改装に関する条項
- サブリースや共有スペースの使用に関する条項
- 火災保険の加入義務
- 修繕責任
- 契約解除時の違約金やペナルティ
- 退去時の原状回復義務
- 共益費や管理費に関する条項
賃貸人は、具体的な取り決めや条件に合わせてこれらの項目を追加・修正し、確実な契約の締結を心掛けましょう。
国土交通省の提供する雛形には上記の全項目が含まれていないことがあるため、十分な注意が必要。雛形のみを鵜呑みにせず、きちんと内容を検討し、確認することで将来的なトラブルを回避できます。
共有者全員の情報を記載する
共有不動産の賃貸借契約を結ぶ際、全ての共有者の情報を確実に記載しましょう。代表者のみの情報では、後々共有者間でのトラブルの原因となる恐れがあります。
例えば、一部の共有者の同意のもとで契約を進めたとしても、後日「契約内容を認識していなかった」という主張が他の共有者から出る可能性があります。これにより、賃貸人だけでなく、物件を利用する賃借人も大きな混乱を招くことが考えられます。
これを避けるためにも、賃貸借契約書には共有者全員の名前はもちろん、必要に応じて各共有者の持分などの詳細も明記しておくことを強く推奨します。
共有持分を賃貸する際の注意点
共有持分を賃貸する際には、以下の点に注意が必要です。
- 賃貸借契約には全員の同意が必要
- 共有者間で契約書を締結しておく
- 契約解除には過半数の同意が必要
- 収益は持分割合に応じて分ける
それぞれ詳しくみていきましょう。
賃貸借契約には全員の同意が必要
共有不動産を賃貸するには、共有者全員の同意が不可欠です。最近の裁判例や、本年4月1日に施行予定の改正民法252条4項の規定を踏まえると、共有建物の賃貸借契約における同意の要件は以下のように解釈されます。
- 一般的な建物の賃貸借契約の締結には、共有者全員の同意が必要。
- 共有者の過半数の同意でできる建物の賃貸借契約は、期間が3年を超えない定期建物賃借権等の特殊な場合に限られる。
共有者間で契約書を締結しておく
共有者間での賃貸借契約は、明文化された契約書として残しておくことを推奨します。この契約書には、次のような要点を明記すべきです。
- 賃料の具体的な分配比率や方法
- 修繕にかかる費用の分担の方法
- 共有者代表としての役割を持つ人物
曖昧な取り決めや口頭の約束だけでは、後日予期しないトラブルの原因となる恐れがあるため、親しい関係であっても契約書の作成は欠かせません。
特定の標準的な雛形が共有者間の契約書には存在しないため、内容を自由に設定することができます。ただし、契約の詳細や内容に不安がある場合は、弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に相談し、契約書の確認や作成を依頼することが賢明です。
契約解除には過半数の同意が必要
賃借人との賃貸借契約を終了させる場合、持分の金額に基づいて過半数の同意が求められます。
具体的に言うと、物件の共有持分の過半数を保有している共有者ならば、一人で契約を解除する権利があります。例えば、3人が共有持分を平等に分け持っている状況では、2人の同意が必要となります。
ここで注意すべきは、賃貸借契約時に指定された「代表者」が行動する必要はなく、重要なのは持分の過半数を有しているかどうかです。
しかしながら、共有者の過半数が同意を示しても、賃貸人として一方的に契約を解除することは原則として認められません。実際、賃貸借契約においては賃借人の権益が重視されることが多いです。
不当に賃借人を退去させる行為は、賃借人からの訴訟リスクを伴います。ただし、以下のような状況であれば、賃貸人の側から契約を解除することが認められる場合があります。
- 無断譲渡や転貸により、再びの信頼関係の確立が困難なケース
- 家賃の未払いにより、信頼関係の再構築が難しいケース
収益は持分割合に応じて分ける
共有者は、特別な合意がない限り、基本的に各自の持分に従い、例えばアパートの家賃収入などの不動産収益を分配します。これは、アパート運営に伴う費用についても同じです。
上記のとおり、共有者の中で一人が家賃を独占していた場合、それは不当利得と見なされ、他の共有者からの請求が可能となります。
実際には、賃貸借契約時に各共有者の持分に基づく家賃の額を明示し、賃借人から直接受け取るという手続きは非現実的です。実用的な方法としては、指定の共有者が全額を受け取り、その後、持分に従い各共有者に分配するのが一般的です。
まとめ
共有不動産の賃貸に関する契約締結や解除、収益の分配などは、多くの共有者が関わるため、十分な注意と理解が必要です。
共有者全員の同意が必要な点や、持分に応じた収益の分配、賃貸借契約の解除条件など、具体的な手続きや条件をきちんと確認し、適切な方法で進めることが求められます。
共有持分の賃貸利用で疑問や不安が生じた。具体的な契約書の作成や確認が必要な場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。賃貸に関するトラブルを未然に防ぐ上では、専門家のサポートを受けることで、安心して不動産活用を進められるでしょう。
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