日本の高齢化が進むなか、成年後見制度の需要も高まっています。今回のの制度は、高齢や病気、障害などで日常の判断が難しい人の権利を守り、財産管理や生活のサポートをするための法的手段として設けられています。
この記事では、成年後見制度の概要や、利用する際の主な費用について、詳しく解説します。後見制度を検討している方や、すでに利用している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
成年後見人とは
「成年後見人」というフレーズに耳は通じても、その実体や役割、必要性について詳しく知らない方も少なくないかもしれません。
成年後見人は、「成年後見制度」に基づき、認知症や知的障害で判断能力が不十分となった人の代理として法的行為を担当する者を指します。契約の成立・解除や財産の管理などを代行し、法的に本人の権益を守ります(※1)。
特に認知機能の低下や知的・精神的な障害を持つ人々は、詐欺などのリスクが高まります。成年後見制度は、そういった人々を社会的に守るための重要な手段となっています。制度のもと、後見人は被後見人の資産を守り、不正な取引や詐欺から遠ざける役割を果たします。
成年後見人制度の2つの種類
以上のような特徴を持つ成年後見人制度には、2つの種類があります。
- 法定後見制度
- 任意後見制度
ここから、具体的に解説します。
法定後見制度
法定後見制度のもとでの後見人は、被後見人の利益を最前面に考慮し、裁判所が中立的な立場で選定します。
法定後見制度の大きな特徴として、手続きが複雑であることや、関連する費用が必要となることが挙げられます。この制度には、「後見」「保佐」「補助」の3つのカテゴリーがあり、それぞれが特定の役割を果たします。
- 後見:判断能力を欠いている成年者のために、後見人が指名される。
- 保佐:一定の行為を代行するため、判断能力が大きく低下している人のために保佐人が指名される。
- 補助:財産の管理や生活のサポートを提供するため、判断能力が部分的に低下している人のために補助人が指名される。
後見人の選定は、被後見人の判断能力のレベルに応じて、これら3つの中から選ばれます。
任意後見制度
任意後見制度は、成年後見制度の一形態であり、自らの判断能力が失われる前に、任意後見人を自分で選び、契約を結ぶことができます。この契約により、判断能力が低下した際のサポートが保障されます。
法定後見人とは異なり、任意後見人の指名に裁判所の介入は不要です。手続きがシンプルで、個人の意向が強く反映されるため、財産や生活のサポートが円滑に行えます。
しかし、裁判所が選任しないため、信頼性のある任意後見人を慎重に選定することが求められます。任意後見契約は、将来的な判断能力の低下に備えるためのものなので、判断能力が確保されているうちに契約を結ぶことが必須です。
成年後見人の職務内容とは?
では、成年後見人はどのような職務を行うのでしょうか。一般的には、以下のようなもの。
- 財産管理
- 身上保護
- 職務内容の報告
各内容について、個別にみていきましょう。
財産の管理
財産の管理は、本人の財産を適切に保持・管理することを指します。
成年後見人は、様々な契約の締結や収入と支出のバランスを取りながら、預貯金を監督します。具体的な業務内容は以下のとおり。
- 権利証や預金通帳の保存
- 遺産の継承手続き
- 収入の管理(年金、貯蓄、家賃、生命保険等)
- 支出の管理(生活経費、公共サービス料、税金、保険料等)
- 不動産の管理や処分
- 預金の出金や金融取引
身上の保護
成年後見人は、本人の生活や治療に関連する契約、例えば介護サービスや医療施設との契約などを代行します。但し、実際の行動や本人だけができる特定の行為は含まれません。
具体的な業務内容は以下のようになります。
- 住居関連:アパート契約や家賃の支払い等
- 医療関連:医療施設の診察、治療や入院の契約等
- 施設入居:高齢者施設への入居契約等
- 介護や日常生活:介護保険の利用や介護サービスの契約等
なお、以下の行為は成年後見人の業務範囲外ですので、留意しましょう。
- 日常の買物、食事、入浴、トイレの介助
- 契約の保証
- 本人の専権事項、如く、治療、手術、臓器の提供など
- 遺言、養子縁組、結婚など
家庭裁判所への報告
成年後見人は、適切に業務を遂行していることを証明するため、通常、年に一度、家庭裁判所へ報告書を提出する義務があります。提出する文書には「後見等事務報告書」「財産目録」「収支報告書」「預金通帳のコピー」などが含まれます。
さらに、成年後見人は業務の対価として、被後見人の財産から報酬を受け取ることが許されています。報酬を受け取る際には、業務の報告とともに、裁判所に報酬の申請を行い、報酬の額は裁判所が判断します。
成年後見人になれる人
成年後見人に選ばれるために特別な資格を求められることはありません。親族だけでなく、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選出されることも多々あります。
しかしながら、以下の条件を持つ人は、成年後見人に選ばれることはできません。
- 未成年者
- 破産している人
- 以前家庭裁判所で法定代理人、保佐人、補助人として解任された人
- 成年被後見人(対象者)に対して過去に訴訟を起こしたことがある人やその人の配偶者、直系の親族
- 行方不明の人
「法定代理人」とは、法律により他者の代わりに法律行為を行うことが認められている人を指します。これには成年後見人や未成年者の親などが該当します。
一度成年後見人が定められると、その交代は簡単には認められません。しかしながら、例外的な状況下では家庭裁判所が成年後見人を変更することも考慮します。
- 成年後見人が自ら辞任を希望した場合:適切な理由があると、裁判所の許可を受けて辞任できます。
- 成年後見人が解任された場合:横領、利益相反などの不正行為や、権限の乱用、職務怠慢など、後見の役割を果たすのにふさわしくないと裁判所が判断したケース。
成年後見人の選出方法
成年後見人の選出方法は、「法定後見人の場合」「任意後見人の場合」でそれぞれ異なります。各方法について、個別にみていきましょう。
法定後見人の場合
法定後見人の選定は家庭裁判所が行います。家庭裁判所に申し立てる際に、推薦する候補者を提示することができますが、裁判所がその推薦者を選定するとは限りません。
以下のような状況では、親族ではなく専門家が選ばれる可能性があります。
- 親族間のトラブルが存在する場合
- 被後見人が大量の資産を持っている場合
- 被後見人が多くの収益不動産を所有し、その管理が複雑である場合
家庭裁判所は、多角的な観点から最も適切な人物を法定後見人として選びます。
任意後見人の場合
任意後見人は、被後見人自身の意向に基づいて選ばれます。家庭裁判所が直接選定するわけではなく、被後見人が信頼する人物を任意後見人として指名できます。
特に、信頼する親族を選びたい場合、任意後見制度を活用することを検討するとよいでしょう。ただし、任意後見には家庭裁判所による任意後見監督人の指名が必須となる点を忘れてはいけません。
成年後見人の申立に必要な費用
成年後見人の申立には、次のような費用が必要です。
- 後見人の選出費用
- 後見人への報酬
それぞれ、個別にみていきましょう。
後見人の選出費用
任意後見人・法定後見人のどちらを選出するにしても、裁判所への申立時の費用は必ず必要です。具体的には、以下のとおり。
<申立てにかかる費用>
- 収入印紙:3,400円(1申立あたり800円+2,600円)
- 鑑定費用:約10〜20万円(本人の判断能力の確認のため)
- 医師の診断書作成費:数千円(病院による)
- その他:住民票や戸籍謄本の発行費、郵送費など
加えて、任意後見契約を結ぶ際には公正証書の作成費が別途発生します。
<公正証書作成にかかる費用(任意後見人の選出時のみ)>
- 公正証書作成手数料:1万1,000円
- 登記嘱託手数料:1,400円
- 登記所の印紙代:2,600円
- その他:証書の正本の交付代、郵送費用など
後見人への報酬
成年後見人や任意後見監督人に支払われる報酬は、裁判所が受け取った申立てを基に「審判」を通じて決められます。
審判を経ずに報酬を受けることは認められません。東京家庭裁判所の基準によれば、一般的な後見業務の場合、法定後見人の報酬の目安としては月2万円が考えられます。
しかしながら、管理する財産の額によっては報酬が調整されることがあります。例えば、管理する財産が1,000万円を超え、5,000万円以下の場合、多くのケースで財産管理が複雑になるため、月3万円から4万円の報酬が目安とされています。
一方、任意後見人の場合、報酬は任意後見契約に記載された額に基づいて受け取れます。
成年後見人制度を利用する場合の注意点
成年後見人制度を利用する際には、以下の点に注意しましょう。
- 親族が後見人となる場合
- 第三者が後見人となる場合
それぞれについて、具体的に解説します。
親族が後見人となる場合
たとえ親族であっても、これは公的な業務であることを忘れずに行動することが必須です。
正確な会計の記録、業務の透明性の維持、報告の義務など、一貫して責任を持って業務を実施することが求められます。
例えば、僅かな金額であっても親族の財産を私的に使う行為は「業務上横領」と判断される可能性があり、家庭裁判所の指摘や介入を受ける可能性があります。
被後見人の財産の「保護」が主要な目的なので、無闇に贈与や貸し付けなどをすることは避ける必要があり、家族間でのコンセンサスが求められます。公的な役割としての厳格な規定と制約を理解し、それを遵守することが不可欠です。
第三者が後見人となる場合
第三者の後見人は、被後見人の利益のために行動するため、生前贈与は財産を減少させる行為となり、たとえ相続の戦略であっても実施は適切ではありません。
また、後見業務に関する財産の一覧や記録を親族に見せる義務は存在しません。
そのため、親族がこれらの情報を確認したい場合、家庭裁判所への申請が必要となり、その過程は多少複雑となる可能性があることを認識しておく必要があります。
後見人と親族との間では、頻繁なコミュニケーションを持ち、相互の信頼を保つことが肝となるでしょう。
まとめ
成年後見制度は、多くの人々の生活を支える重要な役割を果たしています。この制度を利用する際に必要となる費用は、後見人の選出に関連する費用や後見人への報酬など、さまざま。任意後見制度を利用する場合には、公正証書の作成など、特有の費用が発生する点も理解しておく必要があります。
一方、後見人の報酬に関しては、法定後見人と任意後見人で異なるケースもあり、具体的な報酬額は管理財産の額や後見活動の内容によって変わる場合も。
実際の費用はケースバイケースで変わるため、詳しい情報やアドバイスが必要な場合、専門家に相談しましょう。
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