親が不動産を所有して兄弟がいた場合、相続発生時には「誰が相続するか」を決めなければなりません。権利者を1人に決めることが難しい場合、2人以上の名義で登記することは可能ですが、「仲が良いから揉めることはない」と思っていても、後日トラブルを招く可能性があるでしょう。
そこで今回は、兄弟で不動産を共有するリスクに加え、いざというタイミングで共有状態を解消する方法を紹介します。
目次
兄弟で「不動産を共有する」とは?
「不動産の共有」は、名義となっている人全員に所有権がある一方、お互いの権利を制限している状態となります。共有名義にする際には、それぞれの共有持分を決めなければなりません。
共有持分とは、1つの不動産を2人以上で所有している際に、それぞれが持っている所有権の割合のこと。
例えば、兄と弟で不動産を共有する際、兄の共有持分が1/2、弟が1/2だとしたら、半分ずつの権利を持つことになります。この「持分が1/2」とは、「建物の西側が兄のもの、東側が弟のもの」という物理的な考えではありません。あくまでも概念的なことになります。
兄弟で不動産を共有するケース
兄弟で不動産を共有するケースとは、どのような状況があるでしょうか。代表的なものとしては「親名義の不動産を兄弟で相続する」というパターンが挙げられるでしょう。
この際、遺言や遺産分割協議により、相続人を1人に決めると単有になりますが、兄弟2人以上で相続登記をすると共有状態になります。
なお、協議中で相続登記が済んでいない間は「潜在的共有状態」となり、法定相続人全員が共有しているものとみなされます。
別のケースでは「兄弟で一緒に住む家を購入する」という可能性もあるのではないでしょうか。
夫婦で暮らす住宅購入とは異なり、ペアローンが組みにくい可能性がありますが「現金での購入」「一人が現金で頭金を支払い、もう一人がローンを組む」という方法を採れば、不可能ではありません。
兄弟で不動産を共有するリスク
以上のようなケースでは、兄弟で特定の不動産を共有する可能性があります。しかし、不動産を兄弟がそれぞれ共有持分として所有することには、多くのリスクが存在します。
具体的には、次のとおりです。
- ①:独断で売却できない
- ②:借主との契約を自由に変更できない
- ③:管理負担が偏るリスクがある
- ④:費用負担が偏るリスクがある
- ⑤:責任の所在がわからなくなる
- ⑥:立ち退きを要求できない
- ⑦:自分の子孫に影響を与える可能性がある
以下より、それぞれについてみていきましょう。
①:独断で売却できない
不動産すべてを売却するためには、共有者全員の合意が必要になります。そのため、兄が「売りたい」と思ったとしても、弟が「売りたくない」と反対すれば、売却することができないのです。
売却だけでなく、改築や大規模な修繕など、不動産の形を変える「変更行為」や抵当権設定である「処分行為」には共有者全員の合意が必要。
銀行から資金を借りる際に「持っている不動産を担保にしたい」と思ったとしても、独断で行うことはできない点は、あらかじめ把握しておきましょう。
親族間で共有不動産を売買する方法については、以下の記事でも解説しています。こちらもあわせてご参照ください。
②:借主との契約を自由に変更できない
投資用物件の場合、借主との契約やその変更も、共有者全員で行わなければなりません。
たとえ兄が1人でマンションを運営・管理してお、り弟がまったく関わっていなかったとしても、名義に弟が記載されていれば、弟の同意なしに変更することは不可能です。
③:管理負担が偏るリスクがある
空き家の不動産を兄弟で共有しているケースでは、物件管理のためには草取りや掃除など、さまざまな手間がかかります。
兄弟で平等に管理できる状態であれば問題ありませんが、実際には近くに住んでいる兄弟の方に多くの負担がかかり、不満が生じることがあるでしょう。
④:費用負担が偏るリスクがある
不動産を所有していると、固定資産税や管理費・修繕費などあらゆる費用の支払いが生じます。特に、固定資産税などは共有者のうち1人に納付書が送られてくるため、受け取った人が全額支払い、持分に応じて他の共有者に求償する……、という流れを採ります。
この際、兄弟からスムーズに徴収できれば問題になりません。支払いが滞る。あるいは減額要求が発生すれば、支払った兄弟の費用負担が増えてしまうでしょう。
⑤:責任の所在がわからなくなる
賃料収入を得られる投資用不動産を共有した場合、賃料や必要経費などの分配についてトラブルになる可能性もあります。
さらに「借主と争いが起きた」「赤字になってしまった」ときなどは、共有状態にしていると“誰が責任を負うのか”が不明確なため、責任の押し付け合いになってしまいかねません。
⑥:立ち退きを要求できない
少しでも共有持分を持っていれば、「使用する権利」があります。そのため、兄と弟で共有している不動産を兄が占有し、弟が使用できない状況であったとしても、無理やり立ち退きを要求することはできないのです。
そういったケースでは「裁判によって持分に応じた金銭の請求」「悪質な場合であれば明渡請求」をすることも不可能ではありませんが、精神的にも多大な負担増になってしまうでしょう。
⑦:自分の子孫に影響を与える可能性がある
兄弟で共有名義にしていて、問題がなかったとしても、自分や兄弟の死亡で相続が発生した際には自分の子供や兄弟の子供に負担をかけてしまうリスクがあります。
なぜなら、相続を重ねるごとに共有者が増えていき、まったく知らない人同士で1つの不動産を所有しているという状態になることも考えられるため。そうなると、不動産を扱いづらくなるだけでなく、共有者同士で揉め事が起こる可能性も考えられます。
相続によって共有状態となりそうな場合の回避方法
すでに「兄弟で不動産を共有するケース」をご紹介しましたが、誰にでも起こり得る「親からの相続」を回避するためにはどうしたらいいでしょうか。具体的な方法については、以下のようなものが考えられます。
- ①:遺産分割協議をする
- ②:相続放棄をする
- ③:相続前に遺言書を作成してもらう
次項より、それぞれ個別に解説します。
①:遺産分割協議をする
遺産分割協議とは、相続が発生したときに相続人全員で遺産の分け方について話し合うことです。話し合いで取り決める内容は、「不動産を相続する人は誰にするか」「不動産自体を手放すか」など。
遺産分割協議での決定には「相続人全員が同意した」という証拠が必要であり、相続人全員の実印が押された「遺産分割協議書」と、全員分の印鑑証明書が必要となります。つまり、誰か1人でも反対の状態であれば成立することができないのです。
不動産の分割方法は3パターンあるため、個別に紹介します。
現物分割
相続した財産の形や性質を変えることなく、そのまま各相続人に分配する方法です。
例えば「兄には不動産、弟には預貯金という形で分割する」「土地を分筆して自分の持分を相手に譲る(交換)」などの方法で、、それぞれ単有の土地に変えられます。
価格賠償
相続人を1人選び、その人が相続した代償として、他の兄弟に金銭を支払う方法です。相続した財産が不動産しかない場合に行うことが多い手法です。
遺産分割協議書に「代償分割により財産を支払う」という旨を記載しないと、贈与税がかかる可能性がある点には留意しましょう。
換価分割
不動産を含む財産のすべてをお金に変えて、各相続人に金銭で分配する方法です。
不動産を売却するためには故人名義では売れないため、相続登記が必要。この際、相続人2人以上の名義で登記をすると共有状態となり、売却時に共有者全員の合意や立ち会いが必要となるため、代表者1人を選ぶようにしましょう。
なお、「換価分割のための相続」であることを対外的(役所など)にわかるようにしておかなければ、贈与税課税を求められてしまうリスクがあります。課税を回避するためにも、遺産分割協議書に「換価分割をするため」と、記載しておきましょう。
②:相続放棄をする
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産または負債を承継せず、相続人である地位を放棄することです。
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるため、遺産分割協議に参加できず、相続する予定であった財産などは他の相続人で分配することになります。
つまり、不動産の共有状態を避けることはできますが、他の遺産を受け取ることもできなくなるということ。
相続放棄をするためには「放棄します」と発言するだけでは成立せず、家庭裁判所に申述する必要があります。期間も定められており、被相続人の死亡を知ったときから「3ヶ月以内」が原則です。
③:相続前に遺言書を作成してもらう
兄弟間で協議することが難しいと想定される場合、相続が発生する前に親などに遺言書を作成しておいてもらいましょう。遺言書をもとに手続きをするためには、「有効な遺言書」が必要。
自分で書いたものは法的有効性をクリアしていない場合があるため、公証人が内容を確認して、公証役場に保管をする「公正証書遺言」を選択するのが賢明です。遺言書を残しておけば、遺産分割協議が不要になる点がメリットです。
遺産分割協議や遺言書で不動産の相続人を誰にするか決まったら、必ず「所有権移転登記(相続登記)」を行いましょう。そのままにしておくと、潜在的共有状態が解消されず、法定相続人全員が所有していることになってしまうためです。相続登記をすれば、はじめから登記人の単有不動産とみなされます。
兄弟で不動産を共有している場合の解消法
すでに兄弟で不動産を共有している場合、どのようにしたら解消できるのでしょうか?ご紹介します。
- 分筆(土地の場合)
- 交換(不動産が2つ以上ある場合)
- 不動産を全員で売却
- 贈与してもらう
- 持分を買い取る(または売却)
- 共有物分割訴訟
- 業者に自分の持分を売却
以下より、それぞれについてみていきましょう。
分筆(土地の場合)
共有状態にある不動産が「土地」の場合、分筆によって分割する方法があります。
例えば、相続人が兄と弟だった場合、土地を2つの登記簿になるよう物理的に分けることが可能。この状態ではまだ、2つの土地が兄と弟の共有状態となっているため、お互いの持分をそれぞれ譲り合うことで、単有の状態にできます。
交換(不動産が2つ以上ある場合)
兄弟で複数の不動産を共有している場合「交換」を行うことも可能です。「固定資産の交換の特例」を適用すれば、本来なら発生する譲渡税が免除されるというメリットがあります。
不動産を全員で売却
不動産を売却し、売却益を兄弟で分配することでも共有状態を解消可能です。
ただし、前述のように共有者全員の同意が必須。さらに、売却時には印鑑証明書や本人の面会などもあるため、全員が手続きに協力してくれることが前提となります。
贈与してもらう
他の兄弟が「贈与してもいい」と言っているのであれば共有持分をもらい、単有にすることもできます。しかし、この方法ですと贈与税がかかる点には留意しましょう。
持分を買い取る(または売却)
自分に資力がある場合、他の兄弟の持分を買い取ることで共有状態を解消できます。逆に、不動産を手放してもいいのであれば、他の兄弟に自分の共有持分を売ることも一つの方法。
持分の売買金額は、相場を確認し、共有者同士の話し合いによって決める必要があります。
共有物分割訴訟
もし、兄弟間で話し合いができない状態である。あるいは自分たちでは解決に導くことができない場合、共有物分割請求を検討しましょう。
調停によって解決しなければ、裁判所が客観的に分割の方法(現物分割、価格賠償、換価分割)やその内容などを取り決めることが可能です。
専門業者に自分の持分を売却
不動産を売却するためには共有者全員の同意が必要ですが、自分の共有持分のみの売却であれば、他の共有者の同意が必要ありません。一般の人に売ることは難しいですが、専門業者であれば買い取ってくれることがあるでしょう。
事前相談だけなら大きな負担はかからないため、有用な選択肢といえます。
まとめ
兄弟で共有する不動産の処遇について取り決める場合、話し合いで解決しないなら、最終手段は裁判にまで発展するリスクもあります。共有名義状態での放置にはさまざまなリスクがあるため、早い段階から単有状態にするのが賢明です。
不安がある場合は、外部専門家にも相談しつつ、問題の早期解決を目指しましょう。
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