不動産活用を検討していると「契約不適合責任」というワードを耳にすることになります。契約不適合責任とは単に商品やサービスの不備を示すだけではなく、消費者と業者の間の信頼関係における重要な要素ともいえるものです。
本稿では、契約不適合責任の概要に加え、民法改正に伴い、どのように契約不適合責任が定義され、それが一般ユーザーにどのような影響を与えるのか。その詳細と実際の適用例を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、契約に基づいて提供された物の中で、次の3つの条件のいずれかが契約の内容と異なる場合に、売主や施工業者が買主や施主に対して持つ法的な責務を指します。
目的物の種類 | 「目的物の種類」とは、契約書や取引の際の約束などで明示的、または暗黙的に合意された取引物件の種類を指します。 <例> ある種のリンゴを購入する契約を結んだ場合、その品種のリンゴが納品されることが期待される。 |
目的物の数量 | 取引で合意された物の数量を指す。 <例> 100個のリンゴを注文し、契約を結んだ場合、100個のリンゴが納品されることが期待され、不適合責任が発生する。 |
目的物の品質 | 取引の対象となる物の性能や特性、状態などを指す。品質は多くの場合、契約や約束に基づく要件として定められる。 <例> 特定の仕様や基準を満たす新車を購入した場合、その車が約束された品質を持っていることが期待される。 |
新築の注文住宅の場合、建物の欠陥や契約の内容との差異が生じることが多く、契約不適合責任が重要となります。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い
2020年4月1日の改正民法実施前、瑕疵担保責任という名前で契約不適合責任と似た概念が存在していました。瑕疵担保責任は、物に欠陥や不備があった際の売主や施工業者の責任を示すものでした。
ここからは、契約不適合責任と瑕疵担保責任の違いについて解説します。
瑕疵担保責任が廃止になった理由
従来の民法では、物に隠れた欠陥がある場合、売主はその責任を持つとされていました。この制度は瑕疵担保責任として知られていました。近年の改正で、「瑕疵」や「瑕疵担保責任」という言葉は使われなくなり、「契約不適合」や「契約不適合責任」として定義されるようになりました。
この改正がなされた背景としては、旧民法の瑕疵担保責任には学説間での意見の対立が存在したためです。
新たに採用された「契約説明責任」
従来の売買観念では、売主は契約で定めた特定の物を引渡すだけで良いとされていました。たとえその物が状態が良くなくても、契約通りに提供されれば売主の責任は終わる、というのが一般的な認識でした。
しかし、物が劣悪な状態であれば、これは買主にとって不利です。この問題を解決するため、法律で売主の特別な責任、すなわち「瑕疵担保責任」を定め、買主に特定の権利を与える考え方が生まれたのです。
この観点から、瑕疵担保責任は法律が特に定める権利のみを対象とし、一般的な債務不履行に関する権利は含まれませんでした。
しかし、実際の取引の中で、物の特定性が常に明確ではなく、特定物での取引でも不具合が見られる場合、簡単な修理や代替提供で解決することも多かったため、瑕疵担保責任は債務不履行の一形態と見なす考えも存在していました。
これらの議論を踏まえ、新しい改正では「契約責任説」が採用されています。この結果、新しい「契約不適合責任」は物の特定性に関わらず適用され、新しい権利として「追完請求権」や「代金減額請求権」も認められるようになりました。
「隠れた瑕疵」の要件についても撤廃
旧民法の瑕疵担保責任では、瑕疵が「隠れたもの」であり、買主がその瑕疵を契約時に知らなかったことが求められていました。
しかし、新しい「契約責任説」のもとでの契約不適合責任では、物が契約内容に合致しているかが主要な判断基準となり、買主の知識や意識は問われなくなりました。このため、「隠れた瑕疵」という要件は現在の法律からはなくなったのです。
民法改正後に契約不適合責任で認められている権利
民法改正後の契約不適合責任で認められている権利としては、以下のようなものがあります。
- 追完請求
- 代金減額請求
- 催告解除
- 無催告解除
- 損害賠償請求
それぞれ、詳しくみていきましょう。
追完請求
契約の内容と異なる目的物が提供された場合、買主は売主に「履行の追完」を請求できます。これは、正確な内容の物を提供することを求める権利を指します。
代金減額請求
もし、買主が追完を要求したが、売主が適切な期間内にこれを行わない場合、買主は代金の減額を要求できます。特に、追完が不可能または売主が明確にこれを拒否する場合、即時の代金減額が可能です。
催告解除
売主が定められた期間内に追完の履行をしない場合、買主は契約の解除を選択できます。ただし、売主の不履行が軽微とみなされる場合、解除は許されない場合がある点を注意が必要です。
無催告解除
契約の不適合により目的の達成が難しい。あるいは売主が全ての履行を拒否するような場合、買主は即時に契約を解除する権利を持っています。
損害賠償請求
加えて、買主は損害賠償請求の権利も有しています。これは、追完請求や代金減額請求と合わせて、売主への損害賠償を求めることが可能であることを意味します。
契約不適合責任の期間と時効
契約不適合責任を主張する際の期間は、不適合を認識した日から原則として1年以内とされています。ただし、これは「任意規定」なので、特定の契約で変更が可能です。
新築住宅の品質に関する法律では、構造や雨漏り対策部分については10年間の責任期間が強制的に定められているため、注意が必要。
また、以下の状況では、施工業者や売主の免責が認められない点を留意しましょう。
<不適合の存在を知りながら、施主(買主)に告げなかった場合>
- 契約不適合責任の免責が一切認められない。
<自らの行為により、権利に関する不適合が発生した場合>
- 同上。
<売主が宅建業者の場合>
- 民法566条に関する特約をすることはできない。
契約不適合責任の免責
契約不適合責任に関する新しい規定は改正民法に明示的に記載されています。しかしながら、これらの規定の多くは「任意規定」として扱われるため、その実際の適用には注意が必要です。
具体的に「任意規定」とは何かというと、特定の事項に関して契約書に何も記載がない場合、自動的に法律の定める内容が適用されます。一方、もし契約書に特定の内容が記述されていれば、その記述が優先的に採用されるという性質のものを指します。
この特性を活かして、契約時に契約不適合責任の範囲や期間を改正民法の基本的な規定から変更できます。しかし、重要な点として、契約内容が民法以外の他の法律に反する場合、該当の法律に従う義務が生じることを忘れてはなりません。
契約不適合責任に関する注意点
契約不適合が原因でのトラブルは、買主のみならず売主にも大きな影響を及ぼします。特に築年数が長い中古物件の場合、経年による劣化や欠陥が現れるリスクが高まるのですが、これらのポイントを適切に確認せずに進められる契約が少なくありません。
欠陥が引き渡し後に次々と明らかになると、それに伴う補修や修繕のコストが売主の負担として増大します。
特に個人が売主として出る場合、これらの追加費用を支払う経済的な余裕が限られることも考えられるため、物件の状態を正確に把握し、事前の確認が不可欠となります。
売主としては、物件の全体的な状態や具体的な設備の状態を深く理解することが求められます。
これにより、契約不適合責任の範囲内で保証が可能な事項や特記事項を契約書に明記可能。特に古い物件に関しては、その契約不適合責任から一部を免除する内容についても検討する価値があるでしょう。
さらに強調したいのは、売却前のプロフェッショナルによる物件の検査やインスペクションの必要性です。この検査を通じて、潜在的な問題点や欠陥を早期に捉え、契約に反映させることが可能となります。
このように、早期に対応可能な問題は、前もって修繕を行うことで、将来のトラブルを未然に防げるでしょう。
まとめ
契約不適合責任は、一般的には消費者と業者の間の取引において、その品質やサービスの確約を保障するものです。改正された民法では、この責任に関する新しいルールや定義が導入されました。
買い手・借り手としては、これらの権利や規定を理解し、適切な取引を進めるための知識として活用することが必要です。
一方、業者や売主としては、責任を果たすための準備や、適切な情報の開示が求められます。特に、不動産取引や建物の建設においては、多くの注意点やルールが存在しますので、契約不適合責任に関連する問題や疑問が生じた際は、専門家に相談しましょう。