相続が繰り返された土地は「共有名義」の状態になっていることも多々あります。土地の共有名義は多くの家族にとって複雑な問題をはらんでおり、一見、公平な方法として選択されることが多い共有名義ですが、その背後には多くのリスクや課税の問題が潜んでいます。
本記事では「そもそも土地の共有名義とは何か」「そのリスクやトラブルを未然に防ぐためにはどのような対処方法があるのか」について詳しく解説します。
目次
そもそも土地の共有名義とは
土地の共有名義とは、複数の人が一つの土地の所有権を共有している状態を指します。これは、1つの土地に対して、複数の人々が共同で所有権を持つことを意味します。
共有名義の場合、各共有者が持つ所有権の比率(共有持分)が明確に定義されています。例えば、AとBが土地を共有しており、Aが6割、Bが4割の持分を持っている場合、この比率に従って権利や義務が発生します。
一般的に、共有名義の土地を売却する、質権を設定する、建物を建築するなどの大きな行為を行う場合、全ての共有者の合意が必要です。
土地の共有名義は、相続や贈与、土地の売買の際などにしばしば見られる形態。共有者間でのトラブルを避けるためにも、持分の比率や権利義務、使用に関する取り決めなどを明確にしておくことが重要です。
土地の共有名義状態を放っておくとどんなデメリットがある?
土地を共有名義のまま所有していると、以下のようなデメリットが発生します。
- 処分には他の共有者の同意が必要
- 使用・管理でも共有者間で話し合わなければならない
- 相続により権利関係が複雑になっていく
それぞれについて、個別にみていきましょう。
処分には他の共有者の同意が必要
土地を共有している場合、売却などの大きな処分を考える際には、全ての共有者の同意が不可欠です。
特に、共有者が多い場合、一致する意見を得るのは一筋縄ではいきません。加えて、共有者間での関係が悪化していると、単純な話し合いすら難しく、土地が長期間利用されずに放置されるリスクが高まります。
使用・管理でも共有者間で話し合わなければならない
土地の利用や管理に関しても、共有者との間での合意が求められます。例えば、賃貸借契約の解除や賃料の見直しには、共有者の過半数以上の賛成が要されることが多々あります。
共有地の維持や管理にかかる固定資産税や管理費の負担者を決める。あるいは突発的に発生する費用の分担についても、共有者間での取り決めが必要です。
始めは関係が良好でも、時が経つにつれ関係性が変わることもあり、円滑なコミュニケーションが取れなくなる可能性も考慮しなければなりません。
相続により権利関係が複雑になっていく
共有名義の土地における最大の課題は、相続によって持分の権利関係が複雑化することです。共有者の死亡時、その持分は相続人に移行し、これが繰り返されることで、共有者の数や構成が増え、複雑になります。
結果、どのような共有状態になっているのかを明確に把握することが困難になり、土地の適切な管理や利用が難しくなることが考えられます。
土地の共有名義を解消する方法
では、土地の共有状態を解消するためにはどのような方法があるのでしょうか。具体的には、次の手法が挙げられます。
- 分筆
- 贈与
- 譲渡
- 放棄
- 売却
- 交換
以下より、個別に解説します。
分筆
「分筆」とは、1つの土地をいくつかの部分に区分する手続きを指します。
例えば、兄弟2人で土地を等分して共有している場合、それぞれが半分ずつの土地を独占する形で分筆すれば、それぞれの土地に対する権利が明確となり、共有に伴う問題(例:話し合いの必要性や相続問題など)が生じるリスクを軽減できます。
この手法は、全員が該当の土地を保持したい場面に適しています。重要な点として、分筆により土地を単独所有としても、贈与税は生じないことを確認しておきましょう。ただ、このプロセスは所得税の課税の観点から見ると、懸念材料となる場合があります。
そうした懸念に対応するため、所得税法には分筆に関する特別な取り扱いが定められています。具体的には、以下の要件をすべて満たす場合、所得税は課税されないとの規定があります。
<分筆の要件>
- 交換される資産がいずれも固定資産であること(棚卸資産には適用なし)
- 交換当事者はいずれも1年以上所有していた資産であること
- 交換により取得する資産は相手側が交換目的で取得した資産でないこと
- 同一種類の資産であること(土地と土地の交換であること)
- 交換後も取得した資産を譲渡した資産と同じ用途に使用すること(交換する土地を宅地にしていた場合には、取得した資産も宅地にすること)
- 交換する資産双方の時価の差額が20%以内であること
贈与
土地の持分を他の共有者に譲る、あるいは共有者から持分を受け取る方法として「贈与」が考えられます。
具体例として、兄と弟でそれぞれ2分の1の持分を保有している土地において、兄が持分を全て弟に譲ることで、弟が完全に土地を独占する形となり、共有状態が終了します。
この方法は、ある共有者が土地を手に入れたい一方、他の共有者がそれにこだわりがない場合に適しています。ただし、贈与という行為は贈与税の対象となるため、税金を節約するための策略として、毎年の基礎控除額を最大限活用する計画的な贈与が推奨されます。
また、兄弟間での贈与の場合、親子間での贈与に適用される特例税率よりも高い一般税率が適用されますので、税額の計算に注意が必要です。
各区分の贈与税の税率は、以下のとおり。
<一般贈与財産用>(一般税率)
課税価格範囲(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
200万円超〜300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超〜400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超〜6,000万円以下 | 30% | 65万円 |
6,000万円超〜1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
<特例贈与財産用>(特例税率)
課税価格範囲(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
200万円超〜400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超〜600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超〜1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超〜4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
譲渡
持分を他の共有者に売却する、または共有者から持分を購入することで、共有名義を単独所有に変更できます。
一方の共有者が土地を欲しがり、他方が資金を必要とする場面での適切な方法といえます。ただし、持分の購入に際しては、住宅ローンの利用が難しい点や、譲渡所得税の問題、不動産取得税などの税金に関連する課題が浮上する可能性も。
税率や税額は所有期間や売却金額により異なるため、適切なアドバイスを受けながら手続きを進めることが望ましいといえます。
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
短期譲渡所得(5年以内) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.32% | 20.32% |
放棄
共有者が持つ持分を放棄する、あるいは他の共有者から放棄を依頼することで、共有名義の土地を単独所有にすることが可能です。
この方法は贈与とは異なり、持分の受け取る相手を明示しない点が特徴。しかし、税務的な取り扱いは贈与と似ており、放棄を受けた共有者に贈与税や不動産取得税が課される場面が考えられます。
持分を放棄する行為は、他の共有者の同意を必要としないものの、登記の際には共有者全員の協力が必要です。もし、協力が得られない場合には、裁判所を通じて登記を実行するという方法もあります。
売却
共有名義の土地を第三者への売却を選択すると、得られた対価を持分比率に応じて分割でき、共有名義の土地の潜在的デメリットを解消できます。
しかしながら、売却手続きは共有者全員の一致した意志が必要。もし一人でも売却に反対すれば、取引を進めることは難しくなります。加えて、売却益が発生した場合、譲渡所得税の支払い義務が発生します。
利用していない、あるいは維持の価値を見いだせない土地の場合、売却は共有名義の問題を即座にクリアする方法として最適かもしれません。
しかし、共有者間の関係が良好であれば、早めに売却の意向を共有し、合意を得ることが推奨されます。関係がこじれてしまっている場合、第三者の専門家(税理士、弁護士など)の介入を通して、冷静かつ公平な交渉が進められるでしょう。
交換
複数の土地において、同じ共有者間での共有状態が継続している場合、持分の交換を行うことで共有の問題を解消できます。
例として、土地Aと土地Bが兄弟の間で共有されている状態を想定します。持分を交換することで、土地Aは兄の単独所有、土地Bは弟の単独所有と変更可能。
このような持分の交換には、所得税が発生する可能性があります。ただし、一定の要件を満たす場合、所得税法に基づき税の非課税措置が受けられます。
この方法は、資金の準備や取引の手間が少なく、かつ税金の面でもメリットがあるため、共有者双方にとって有益な選択となる可能性が高いでしょう。
【ケース別】土地の共有名義を解消する際のポイント
土地の共有名義を解消する方法については以上のとおりですが、実際には次の事柄にも留意する必要があります。
- 共有者の誰かが認知症
- 行方不明の共有者がいる
- 連絡が取れない共有者がいる
それぞれについて詳しくみていきましょう。
共有者の誰かが認知症
共有者の中に認知症の症状が現れた場合、その者の合意を得ることは難しくなります。これは他の共有者にとって非常に困難な状況を招きます。
こうした場面では、成年後見制度の活用が推奨されます。この制度は、認知症等で判断能力を喪失した者の財産や権利を守るためのもので、裁判所の判断により成年後見人が指名され、共有者の代わりとなって財産の管理や意思表示を代行します。
さらに、未然の対策として、任意後見制度を利用することも考慮すべきでしょう。この制度を適用することで、判断能力を失う前に後見人との契約を結ぶことが可能となり、将来的なトラブルの予防に役立ちます。
行方不明の共有者がいる
共有者が行方不明となり、共同での話し合いが困難な場合、一方的に解消手続きをとることは難しいでしょう。しかし、このような状況での打開策として、共有物分割請求訴訟が選択肢になります。
この訴訟により、裁判所が介入して共有名義の解消方法を指示します。これにより、共有者全員の合意なしに、法的手続きを踏むことで共有名義の解消が可能です。
連絡が取れない共有者がいる
共有者との連絡が全く取れない場合、裁判手続きに入る前段階として、不在者財産管理人制度を利用することが考えられます。
不在者財産管理人は、連絡が取れない共有者の財産を適切に管理するための代理者の役割を果たします。この管理人が指名されることで、裁判所の許可のもと、共有名義の解消やその他の手続きを進められるようになります。
そもそも土地の共有名義を発生させない対処法はある?
土地の共有名義が生じる状況の典型的なケースとして、相続が挙げられます。確かに、相続した土地をすぐ売却する意向がある場合、一旦共有名義とし、売却後に得た対価を分配する方法が考えられます。
しかしながら、共有名義とした土地に一方の相続人が居住している場面では、売却の話が難航することが多々あります。特に相続財産が不動産以外に少ない場合、以下に財産を公平に分配するかが難しい課題となるでしょう。
そんな場合の1つの方法として、不動産に居住しているAさんが該当の不動産を全て相続し、その代わりにBさんへの相続分を分割払いとして返済する形が考えられます。例えば、土地の価格が4,000万円だった場合、持分が半分だったなら2,000万円を月々10万円ずつ返済するという形です。
ただし、このような取り決めは兄弟間でのトラブルの原因となりやすく、また税務上の問題も伴う可能性があるため、専門家として税理士のアドバイスを受けることが推奨されます。
まとめ
土地の共有名義は、一見公平な状態に思われますが、その背後にはさまざまなリスクや税務上の問題が隠れています。相続時の不動産の取り扱いに関して、簡易的な選択をすることで後々のトラブルや予期せぬ税金の発生を引き起こすことがあるのです。
そのため、土地の共有名義や相続関連の問題に直面した際は、早期の段階で専門家の意見や助言を求めることが重要。土地や不動産の相続は一生に一度か二度の大きな決断となる場面が多いため、後悔のない選択をするためにも、専門家に相談しましょう。
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