共有持分問題の解決方法として「売却」がメジャーな手法ですが、損をしないためにも把握しておくべき事柄は多く存在します。「買戻特約付売買」もその1つです。
買戻特約付きの不動産売買は、特定の条件下で売主に再購入の権利を与える一方で、買主には将来的な資産回収の可能性を付与できます。
この記事では、買戻特約の法的枠組みや、売主と買主双方の観点から見たメリットとデメリットなどを詳細に解説します。
目次
買戻特約とは
買戻特約とは、不動産売買契約において、売主が一定期間後に売買代金と契約費用を返還し、不動産を再購入する権利を持つ特約です(民法579条)。
この特約により、買戻し権は売主に保持され、売主は不動産を第三者に売却しても、元の売主が第三者に対して買い戻しの権利を行使できるようになります(民法581条1項)。
買戻特約の確認方法
買戻特約の有無は、不動産購入者にとって重要なポイントです。この特約の存在は、法務局が発行する全部事項証明書(不動産登記簿)を通じて確認できます。
買戻特約は、不動産の売買契約と所有権移転登記申請時に同時に設定され、登記簿に明記されます。登記された買戻期間の有無も確認でき、期間が経過していれば買い戻しの心配はありませんが、放置すると金融機関の融資拒否や売却時のトラブルの原因となるリスクを抱えています。
買戻特約の付記登記は、買戻期間が経過しても自動的には抹消されません。このため、買戻期間が経過した場合でも、登記は残り続ける可能性があります。
したがって、不動産を購入する際は、売主に買戻特約の抹消を依頼するか、自身で抹消手続きを行うことが重要です。これにより、将来的な取引における潜在的な問題を防ぐことができます。
買戻に必要な要件
買戻に必要な要件としては、以下のものが存在します。
- 不動産のみが対処
- 買戻特約は売買契約と同時に行う必要がある
- 売買代金と契約費用は返還しなければならない
- 買戻期間は最長で10年まで
次項より、個別にみていきましょう。
不動産のみが対処
買戻特約は、民法上、不動産にのみ適用されます。これは、買戻特約の存在が第三者に不意の損害を与える可能性があるため、登記を通じて公示できる不動産に限定されるものです。
買戻特約は売買契約と同時に行う必要がある
買戻特約は、対象不動産の売買契約と同時に設定される必要があります。売買契約と同時に設定しない場合、買戻特約としての効力は認められませんが、代わりに再売買の予約(民法第556条)として効力を持つ可能性があります。
売買代金と契約費用は返還しなければならない
買戻特約を行使する際、売主は買主から受け取った売買代金と契約費用を返還する義務が発生します。以前は、この返還義務が強行規定と見なされ、当事者間の異なる合意でも無効でした。
しかし、民法改正により、「買主が支払った代金(別段の合意がある場合はその合意による金額)」(民法第579条)として任意規定に変更されました。これにより、売主の返還義務については、当事者間の合意による柔軟な定義が可能になっています。
買戻期間は最長で10年まで
買戻特約による不動産の買い戻し可能期間は最長10年です(民法第580条1項)。契約で10年を超える期間を設定しても、10年とみなされ、期間の更新は認められません(同2項)。
買戻期間を特に定めない場合は、自動的に5年とされます(同3項)。これにより、不動産の買戻権の適用期間に関して明確な基準が設けられています。
共有持分は買戻特約付きで売買できるのか?
共有持分の売買においても、買戻特約を設定することは可能です。買戻特約は、売主が将来的に対象不動産を再購入する(売買契約を解除する)権利を持つ売買方法を指します。
この特約は、共有持分においても、売主と買主が同意すれば適用できます。重要な点は、買戻特約を不動産登記簿に記載しておくことです。これにより、他の共有者を含む売買当事者以外にも、特約の存在を主張できるようになります。
買戻特約が登記されていない場合、将来的に「買戻しを約束した」という主張を行うことが困難になりかねません。特に共有物の分割や競売の際には、登記されていない買戻特約が原因でトラブルが発生する可能性があるため留意しましょう。
したがって、共有持分の売買で買戻特約を利用する際には、その登記を適切に行うことが非常に重要です。これにより、将来のトラブルや誤解を防ぐことができ、売買当事者双方の権利と利益を保護することに繋がります。
買戻特約付売買のメリット
ここからは、買戻特約付売買のメリットについて売主・買主双方の視点からみていきましょう。
売主側のメリット
売主にとっての大きな利点は、不動産を将来的に買い戻すことができる点です。一般の売却では、一度手放した不動産を再購入するのは難しいものの、買戻特約を利用すると、一時的に所有権を譲渡しながらも、将来的に再取得する権利を保持できます。
これにより、売却による資金調達と、将来的な不動産の保有を両立させることが可能になり、資産運用の柔軟性が高まります。
買主側のメリット
買主にとっては、収益物件の共有持分を買戻特約付きで購入することで、将来的に投資回収が容易になるというメリットがあります。
不動産投資では出口戦略が重要であり、買戻特約があれば、初期投資が返還される見込みが高く、家賃収入を含めた利益の確保が見込めます。
ただし、共有持分の家賃収入が単独名義に比べ少ない点に注意が必要ですが、投資額の確実な回収という点で、比較的リスクの少ない不動産投資といえます。
買戻特約付売買のデメリット
買戻特約付売買にはメリットだけでなく、デメリットも存在します。ここからは、買戻特約付売買のデメリットを解説します。
売主側のデメリット
売主にとってのデメリットは、買戻特約が付いている不動産は需要が限られるため、販売が難しくなることです。
多くの不動産購入者は、将来的に買い戻される可能性がある物件よりも、完全な所有権を求める傾向にあります。これにより、売却が困難になったり、売却価格が低下するリスクがあります。
買主側のデメリット
買主のデメリットは、物価変動によるリスクです。不動産の価値が上昇しても、買戻し価格は売買時の金額のままなので、市場価値の増加分を享受できません。
逆に価値が下落すると、売主が買戻しを行わない可能性があり、投資の損失を被るリスクがあります。買戻特約は、売主が行使する権利であるため、買主から買戻しを強制することはできません。
共有持分で買戻特約付売買を行う際の注意点
共有持分で買戻特約付売買を行う際には、以下の点に留意しましょう。
- 買戻可能規範は10年以内に設定する
- 名義変更の際には買戻特約を登記する
それぞれ個別に解説します。
買戻可能規範は10年以内に設定する
買戻特約に設定できる最大期間は法律により10年以内と定められています。特約を設定した時点で期間を明記しなかった場合、自動的に5年以内の期限が設けられ、この期間内に買い戻しが行われなければ特約は無効になります。
期限が過ぎれば特約の延長はできませんが、当事者間での合意による買い戻しは可能です。
名義変更の際には買戻特約を登記する
買戻特約付きの共有持分売買を行う際には、名義変更の際に買戻特約に関する登記も同時に行う必要があります。この登記により、第三者に対して特約の存在が明示され、例えば買主が共有持分を転売した場合でも、特約が引き継がれ、買い戻しが可能になります。
共有持分の買戻特約付売買を行う際に知っておくべき法規制
買戻特約に設定できる最大期間は法律により10年以内と定められています。特約を設定した時点で期間を明記しなかった場合、自動的に5年以内の期限が設けられ、この期間内に買い戻しが行われなければ特約は無効になります。
期限が過ぎれば特約の延長はできませんが、当事者間での合意による買い戻しは可能です。
買戻特約付きの共有持分売買を行う際には、名義変更の際に買戻特約に関する登記も同時に行う必要があります。この登記により、第三者に対して特約の存在が明示され、例えば買主が共有持分を転売した場合でも、特約が引き継がれ、買い戻しを行えます。
共有物(共有不動産)において、共有者の一人が分割を求める「共有物分割請求」が可能。分割の方法には、以下の3種類が存在します。
- 現物分割:共有物を持分割合にそって切り分け、各共有者の単独名義にする
- 代償分割:共有者間で共有持分と金銭を交換する(共有者間での持分売買)
- 換価分割:共有物を売却して、売却益を持分割合に応じて分配する(現金による分割)
買戻特約がある場合でも、共有物分割請求は妨げられません。分割や競売により共有持分が現金化されたり、単独名義になることもあり得ます。分割や競売の結果、買主が取得した不動産または代金のみが買い戻しの対象となります。
競売においては共有者も入札可能です。買主が落札し、その共有者が分割請求者である場合、売主は不動産全体の買い戻しも行うことができる点に注意が必要。このような場合において、買戻特約の運用における法的な複雑さが浮き彫りになるでしょう。
まとめ
買戻特約付き売買は、不動産取引の一形態として、特定の機会と挑戦を提供します。売主にとっては再購入の機会を、買主には将来的な投資回収の見込みをもたらす一方で、物価変動や市場の需要などの変動によるリスクも伴います。
法的な観点からは、買戻特約の有効期限や共有物分割請求など、複数の重要な要素が関わってきます。
これらの側面を適切に理解し、不動産取引を有利に進めるためには、専門家の意見を求めることが極めて重要です。不動産取引は複雑な法律や規定が絡むため、専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら慎重に進めることをおすすめします。
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